顧客は製品への関心や関与を強めるほど、その製品に高い価値を感じるようになる。それは製品に関する態度や行動、満足度、支出額の変化となって現れる。言い換えれば、顧客のモチベーションの焦点に合った表現を伝えることによって、彼らは製品に対してより多くの(時に、はるかに多くの)金額を支払ってくれるのだ。

 表現のニュアンスには、微妙な判断が求められる場合もある。たとえば自動車を売る場合、「リッター当たりの走行キロ数が長い」(促進)とも、「ガソリン代が少なくて済む」(予防)とも説明できる。限定版を買うと付いてくる「特典」を強調することもできるし、買わないと何を逃すことになるかを説明してもよい。コーヒーショップのロイヤルティ・プログラムなら、1杯ごとに1割引にするのと、9杯で1杯無料にするのと、どちらがよいだろうか。

 取るべきは促進重視の戦略か(走行キロ数、特典、無料の1杯)、予防重視の戦略か(ガソリン代、下位製品、1杯ごとの割引)。顧客が最終的に得るものは同じでも、どちらのプロセスを通してそこに至るかによって、心理的にまったく異なる体験となるかもしれないのだ。

 特定のメッセージや製品に関して、受け手にとってどちらが効果的かを知ることが、適合性を実現するカギになる。たとえばウェルチに関する研究結果を見てみよう。同社のグレープジュースが「活力を高める」(促進型製品)と消費者に訴求していた時、利得フレーミングによる広告表現(「元気が出る!」)のほうが、損失フレーミング(「元気になるチャンスを逃がさないで!」)よりも、潜在的購入者のブランドに対する評価が高かった。逆に、ジュースが抗酸化物質を含んでいるためガンや心臓病を防ぐ効果がある(予防製品)と訴求していた時は、損失フレーミング(「動脈血栓を予防するチャンスを逃さないで!」)のほうが、利得フレーミング(「動脈血栓を予防しよう!」)よりも効果的だった。

 同様の研究結果は、日焼け止め、ビタミン剤、練り歯磨き、スポーツジムの会員権など、他の商品についても示されている。ティーンエイジャーの喫煙防止を目的とする広告や、社会政策に関するメッセージ(放課後活動への資金援助の必要性)などの場合も、モチベーションとの適合性を考慮したほうが効果的だった。またある研究では、果物と野菜を食べることの効果について、自分のモチベーションに合うようにフレーミングされたメッセージを読んだ被験者は、そうでない被験者に比べ果物と野菜の摂取量が20%増えた。別の研究では、被験者たちのモチベーションの焦点をふまえ、同じマグカップを利得もしくは予防のフレーミングで販売したところ、促進志向の者は利得フレーミングを、予防志向の者は損失フレーミングを示されたほうが50~70%も多くの金額を支払った。

 メッセージをモチベーションと一致させるためには、製品の特性と受け手のモチベーションの両方に常に気を配らなくてはならない。とりわけ、製品を特定のターゲット集団に向けて売り込む場合にはそれが重要となる。人々のモチベーションの焦点を判断する手がかりとしては、文化や職業など、いくつかの人口統計学的な変数があるが、年齢層もその1つだ。若い人は概して促進志向が強く、チャンスに惹かれる傾向が強い。成長、進歩、創造的表現などへの可能性を重視し、リスクをあまり恐れず、利得フレーミングによる製品やアイデアを気に入る可能性が高い。

 対して年輩の人々は、予防を重視する傾向が強く、無難な道を選ぶことが多い。信頼性や安全性を求め、自分が獲得してきたものを守りたいという気持ちが強い。概してリスクを嫌い、損失フレーミングに惹かれる可能性が高い。

 モチベーションの一致は人に影響を及ぼす強力な手段となるが、見過ごされていることも多い。促進と予防を考慮してメッセージを組み立てれば、受け手をいっそう惹きつけ、信頼も得られる。発信する意見は説得力を持ち、ストーリーは魅力的になる。販売する商品はより高く評価され、より多くの金額を支払ってもらえるだろう。そして何よりも、そのアイデアを支持したり製品を購入したりする自分の決断に、受け手自身がいっそう満足できる。したがって、モチベーションの一致という手段を使う側も満足できるのだ。


HBR.ORG原文:Use Motivational Fit to Market Products and Ideas December 22, 2011

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ハイディ・グラント・ハルバーソン
(Heidi Grant Halvorson)

コロンビア大学ビジネススクールのモチベーション・サイエンス・センターの共同ディレクター。

ジョナサン・ハルバーソン(Jonathan Halvorson)
ニューヨークにある非営利の医療保険組織、エンブレム・ヘルスでeビジネス部門のディレクターを務める。