立ちはだかる資源の壁を乗り越えるアナリティクス

 アナリティクスが時代とともにどのように変化してきたかを押さえたところで、現在の実践状況を振り返ってみよう。冒頭述べたディズニー・ワールドの例はそのひとつであるが、米コカ・コーラは、濃縮果汁ではなく、果汁100%オレンジジュースでも攻勢をかけるべく、気象や予想収穫量をまでを数式化したモデルを基に生産計画を立て、「自然の気まぐれ」に対抗して安定的に味と香りを提供する体制を実現させるためにアナリティクスを活用している。気象や収穫予想といった外部情報に加えて、ジュースの味を決定する果汁のブレンドについて、甘さや酸味など600通り以上で詳細に数値化されたデータを蓄積している。このデータを活用することで最長15か月先までの製品供給の確保が可能になり、突発的なハリケーンや低気温に対しても、10分程度で事業計画を修正できるというから驚きだ。

 アナリティクスを活用するのは企業だけではない。サービスレベルの向上という点において、公共機関においても同じようにビッグデータの活用が求められている。
 たとえば、ニューヨークや日本の某自治体では、一人でも多くの市民に優れたサービスを提供すべく、大規模人口統計データ等を組み合わせ、人口動態情報から、サービス提供機関を地域に集中させたり、Twitterから上がる画像入り道路の苦情・改善情報を地図上にマッピングすることで、文字列では検知不可能な優先順位の高い保守を必要とする道路を地理的統計量から特定して、対象の担当員を効率的に派遣するところまで実施している。また、センサーデータを活用した水道メーターの検針、マンションの入り口を画像認識によるキーレスエントリーにしたり、高齢者向けの巡回見守りサービスなども提供している。
 さらに、少子高齢化の流れを受けた税収の減少という問題に対しても、行政サービスの質を落とすことなくデータに基づいた、「選択と集中型」の政策制度設計を志向し始めている自治体も生まれつつあるようだ。

 国や自治体においては、財源という大きな壁が立ちはだかっている。アクセンチュアとOxford Economicsが2012年に10カ国を対象に共同で行った調査結果によると、驚くべきことに「現行水準の行政サービスを続けるためには、どの国においても、今後10年余において十億ドル単位の歳入不足に陥る」という結果が出ている。世界レベルでの競争の激化や少子高齢化の流れにおいては、限られた財源をベースにしつつ、効率的、効果的にサービスを提供するということが、これまで以上に重要になってくるのだ。
 企業においても経営資源が限られている状況は同じである。 だからこそ、デジタル技術やデータの力を賢く活用することは不可欠だ。現在のデータ活用技術をもってすれば、効率的でありながら、紋切り型の画一的なサービス提供ではなく、顧客や市民一人一人に最適な、きめ細やかなサービスを提供することが可能なのである。

次回は効果的なアナリティクスを行うには何をすべきか、3つのポイントを紹介する。(続く)

 

工藤 卓哉(くどう・たくや)
アクセンチュア株式会社 アクセンチュア アナリティクス日本統括 マネジング・ディレクター。
慶應義塾大学卒業後、アクセンチュア入社。経営コンサルタントとして事業戦略等の策定に従事した後、公共政策を学ぶため、退職留学。コロンビア大学で環境科学政策を研究し修士号を取得。カーネギーメロン大学情報工学修士号取得。ブルームバーグ市長政権下のニューヨーク市で統計ディレクター職を歴任。11年に帰国し、アクセンチュアに復帰。13年6月より現職。著書に『データサイエンス超入門〜ビジネスで役立つ「統計学」の本当の活かし方』(共著、日経BP社、2013年)、『これからデータ分析を始めたい人のための本』(PHP研究所、2013年)がある。慶應義塾大学SFCデータビジネス創造ラボ上席所員・データサイエンス講師、会津大学 ソーシャルサイエンスプログラム客員教授。

 

水野 尊文(みずの・たかふみ)
アクセンチュア株式会社 アクセンチュア アナリティクス シニア・マネジャー。
東京大学大学院 工学系研究科電気工学修士課程修了、アクセンチュア入社。通信業界を中心としたコンサルティングの知見を基に、主に通信事業者向けのアナリティクスソリューションの企画から導入までをプロジェクトマネージャーとして指揮。また、大学や企業にてビッグデータやアナリティクスをテーマとした講師・講演の経験多数。