だが、失敗はそれだけではない。案件の魅力を「説明」するだけで中国人投資家の心をつかめる、と思い込んでいたことも間違いだった。中国で成功するためには、もちろん巧みな説明で価値を納得させる必要がある。しかし重要なのは、信頼の置ける筋からの説明でなければ誰も耳を傾けようとはしない、という点だ。そうした信頼関係は、長い時間を経て培われるものだ。中国の消費者とて愚かではない。現地で、実質的かつ永続的に存在する企業とビジネスをしたいと願っている。どこからか中国に飛んできて、あちこちでむやみに騒ぎ立て、巣をつくらずに帰ってしまうような、「海カモメ」とも呼ばれるうさんくさい会社ではだめなのだ。中国では、時間をかけて関係を築く必要がある。培われた個人的な信頼関係が、いずれは自分自身や自分のビジネス、そしてイベントを認めてもらうために役立つ。こういったコネクションがなければ、計画は失敗に終わることになる。

 今回は中国での事例を紹介したが、文化を越えたベスト・プラクティスの適用は、グローバルにビジネスを展開するうえでつきまとう課題だ。成功する確率を高めるために、企業にできることは何だろうか。

 最初にできるのは、既存のベスト・プラクティスを微調整するだけでよいのか、それとも大幅な見直しが必要なのかを慎重に検討することだ。微調整の場合は、ほんのわずかな修正をほどこすだけで核心部分は変えない。資料を翻訳するとか、プロセスを一部表面的に手直しするなどだ。たとえばアパレルブランドが、有名な映画スターを宣伝に使うことでアメリカでのマーケティングに成功してきたのであれば、ブラジルやインド、中国の市場では、その国で有名な映画スターを起用することで戦略を微調整できる。

 微調整の利点は、少ない労力で海外市場への移行を進められることだ。とはいえ、微調整だけでは済まないことのほうが多い。表面的な対処だけでは、その奥にある大きな課題は解決できないからだ。その場合にはアプローチの見直しが必要になる。自国とは大きく異なる現地文化の価値感、思想、メンタリティに基づいて、戦略を大胆に再構築するのだ。

 アムウェイの中国事業の事例は、微調整ではなく再構築が不可欠となる状況をよく表している。同社の伝統的な手法である直接販売は、中国では政府による規制や法的・文化的障壁に阻まれ、1998年には連続販売取引(マルチ商法)が正式に禁止された。この時、同社は製品の販売方法を抜本的に変更しなくてはならなかった。アーロンの場合もこれに似ている。既存のアプローチを大きく見直すべき時に微調整で済ませてしまい、その判断が失敗の一因になったのである。

 ビジネスの成否を左右するこの重大な判断を、どのように下せばよいだろうか。そのためには、異文化間の橋渡しをしてくれる「文化コネクター」を見つけることだ。あなたの会社や業界に精通していると同時に、「グローバルに関する器用さ」――異文化に合った行動を取ることができ、文化への適応度を診断できる能力――を持つ人物である。社外の識者やコンサルタントでもいいし、社内の誰かでもいい。ただしその人物は、必要とされる適応度(あるアプローチを、異文化に合わせてどの程度調整すべきか)を判断するに足る文化的洞察力を備えている必要がある。同時に、優れた計画を実現させるための専門的な知識・手腕も求められる。アーロンの場合には、文化コネクターの開拓が中途半端だった。中国語を話す非常勤のアメリカ人スタッフには、計画を成功させるために必要な人脈や、中国の消費文化への高度な理解が欠けていたのだ。

 誰もが痛感しているように、自国のベスト・プラクティスを異文化に適用するのは容易ではない。しかし、創意工夫と粘り強さをもって強い決意で挑み、文化コネクターの助けを借りれば不可能ではない。異文化の壁に屈することなく、グローバル化のチャンスを活かせるだろう。


HBR.ORG原文:When Best Practices Don't Travel April 15, 2013

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アンドリュー・L・モリンスキー(Andy Molinsky)
ブランダイス大学インターナショナル・ビジネススクールの准教授。担当は組織行動学。心理学部准教授も兼務。

マイケル・ザッカワー(Michael Zakkour)
トンプキンズ・インターナショナルの中国・アジア太平洋グループのプリンシパル。企業の中国進出を支援している。