質の悪いサービスが高業績につながる、第2のカテゴリーがある。その企業の提供するものが非常に魅力的で、リーチが広大であるがゆえに、きめ細やかなサービスを提供するための投資が大きな戦略ミスになりかねない場合だ。その典型は、リンクトイン、ツイッター、クオラといった成長著しい新興のソーシャルメディア企業だ。これらの企業はグローバルなリーチを提供し、膨大な数のユーザーを魅了しているが、顧客の質問に電話で応対することはなく、そのことが一部の反発を買っている。「こういった企業はどこも、電話によるサポートを避けています」と、ある顧客サービスの専門家はニューヨークタイムズ紙の別の記事で述べている。「顧客は苛立って攻撃的になることもあれば、ひどく落ち込んでいたり泣いたりすることもある。そうした人々との対話は、とにかく難しいのです」

 企業が顧客と話さないというのは、特定のカテゴリーの顧客、とりわけオンラインでのやり取りに不慣れな年配のユーザーにとっては厄介だ。それでも現在のところ、きめ細やかなサービスはかなわぬ夢のように見える。記事によれば、フェイスブックにオンラインで寄せられるユーザーからの要望は毎日200万件、社員1人に対するユーザー数は30万人に上るという(2012年7月時点)。さすがにUSAA(金融・保険サービス)やアメリカン・エキスプレスのように顧客からの問い合わせに答えるなど、もってのほかだろう。

 ここで、リチャード・ボーブの記事に戻ろう。彼の言葉に私が驚いたのは、ウェルズ・ファーゴが、上記の2つのカテゴリーのどちらにも当てはまらないということだ(この点については、どの大銀行でも同じだ)。ユニークな価値提案によって顧客にあたり前の期待を諦めさせるほど、業界における圧倒的な存在でもゲームのルールを変える企業でもない。きめ細やかなサービスが到底望めないような、抗しがたい魅力を持つ先駆的なサービスを提供しているわけでもなく、急激に成長しているのでもない。

 ここで、投資家に質問がある。素晴らしいサービスを提供できなくても、長期的には素晴らしい業績を期待できるほどのウェルズ・ファーゴの魅力は、どこにあるのだろうか? サービスは得意ではないが、「販売」には素晴らしく長けている、とボーブは言う。記事によれば、かつてボーブが取引していたワコビアの支店には、マネジャーが「いつも接客に使っていた」ブースがあった。ところがウェルズ・ファーゴがワコビアを買収した後、接客要員は「金融商品の販売デスク」に取って替わられた。「顧客の問題解決に時間を費やしても、商品を販売することにはなりません」とボーブは結論づけ、「それは時間のムダなのです」と述べている。そのことを記事はこうまとめている――「接客は、実際には売上げを稼ぐ妨げになるのかもしれない」

 逆らうようだが、私の考えは違う。企業が競合他社とほとんど区別できない商品を提供しているのなら、群れから抜きん出る唯一の方法は、何か特別なことをする以外にない。他社にないものを、自分たちは提供できているか。業界で誰も提供していない何かを、自分たちは提供しているか。これらの問いこそが不可欠だが、答えを持っている企業はほとんどない。

 たしかに、サービスが悪くても成功している企業は存在する。しかしほとんどの場合、売上げで抜きん出ようとする企業は、サービスも優れていなくてはならない。顧客の前には、質のよい商品と妥当な価格の選択肢が無数に並んでいる。顧客を呼び戻し、さらなる購入を促し、長期的な関係を築いてもらうためには、優れたサービスが必要なのだ。


HBR.ORG原文:Bad Service Can Be Good Business August 8, 2012

■こちらの記事もおすすめします
顧客の怒りを感動に変えた ジェットブルーの驚くべき対応
開かれる高級ホテル ドアマンが守るロビーから、フリーWi-Fiが飛ぶロビーへ
顧客を歓喜させることの価値

 

ウィリアム・テイラー(William C. Taylor)
『ファストカンパニー』誌の共同創刊者。最新刊は『オンリーワン差別化戦略』(ダイヤモンド社)。既刊邦訳に『マーベリック・カンパニー 常識の壁を打ち破った超優良企業』(日本経済新聞出版社)がある。