私は、残酷なまでに競争の激しい業界で大成功を遂げている企業を研究しながら、この教訓を繰り返し学んできた。「すべてにおいて、そこそこ優秀」というだけでは十分ではない。最も成功している企業は、業界で「最も○○」な存在になる方法を見出している――最もエレガント、最もシンプル、最も排他的、最も手頃、最もグローバルでシームレス、最も地元に密着している、等々――。何十年もの間、多くの企業とリーダーたちが慣れ親しんできたのは、「道の真ん中」を歩ませてくれる戦略や慣行だった。理論的には、そこは顧客がいて、安全で安心できる場所だ。しかし現在では、あまりに変化が激しく、プレッシャーが大きく、あらゆる物事に多くの新しい方法が存在するため、道路のど真ん中を歩いていてはどこにもたどり着けない。

 ここで明らかにしておきたいが、「最も○○な存在」というのは必ずしも、業界で最大規模の、あるいは最大シェアを握るプレーヤーになることではない。他社と似通った事業展開に疑問を持たない企業や経営者が多いなかで、独自の戦略を貫き圧倒的なプレゼンスを築くために懸命に取り組むことを意味している。テキサスの個性的なコラムニストで大衆主義者のジム・ハイタワーは、よく次のように言う。「道の真ん中には、黄色い車線とトカゲの死体のほかには何もない」。ここに加えるべきなのは、混雑した市場で古いやり方に従いながら、群れから抜きん出たいと奮闘している企業や経営者たちかもしれない。

 私の大好きな銀行家の1人、バーノン・ヒルは、1973年にコマース・バンクという革新的な銀行を創業し(その後、カナダのトロント・ドミニオン銀行に85億ドルという巨額で売却)、2010年にはロンドンに、他に類のないサービスを展開するメトロ・バンクを創業した(ロンドンに新しい銀行ができたのは138年ぶりだ)。ヒルは、なぜ銀行のなかで最もユニークな存在になろうと奮闘しているのか。理由は単純だ。彼は一番大きな銀行ではなく、最も活き活きとして愉快で、最もサービスと便利さを重視した銀行を目指している。ヒルはよくこう言う。「優れた企業は、所属する業界のビジネスモデルを再定義する。私は銀行家として教育を受けてきたが、銀行家のようには考えない。普通の銀行家から見ればバカげていると思えるようなことをやる」

 バカげた銀行家と同様のことは、ナットとボルトの小売企業にも当てはまる。大成功したいのなら、何か特別なことで抜きん出なくてはならない――それが最大の品揃えとリーチであれ、最も焦点を絞った提供物や心に残るサービスであれ。ファスナルやバーノン・ヒルが示しているように、他社にない企業プロフィールを持ち戦略的ポジションを構築する方法は無数にある。独自性を貫く決意――すなわち因習に挑戦し、標準的なオペレーション手法と決別する意志さえあればいい。だが、これは昨今の企業にはほとんど見られない。なぜなら、そうしたやり方をバカげていると見る経営陣が多いからだ。

 あなたのやり方が同業他社と同じだとしたら、抜きん出ることなど期待できるだろうか? だから、自問してみるといい。自社が業界で「最も○○」なものは何か? それをさらに磨き、最高の存在になるためにはどうすればいいだろうか?


HBR.ORG原文:To Win Big, It Helps to Be a Little "Nuts" April 18, 2012

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ウィリアム・テイラー(William C. Taylor)
『ファストカンパニー』誌の共同創刊者。最新刊は『オンリーワン差別化戦略』(ダイヤモンド社)。既刊邦訳に『マーベリック・カンパニー 常識の壁を打ち破った超優良企業』(日本経済新聞出版社)がある。