直感的には、どちらの考え方にもそれぞれメリットがありそうだ。しかし、あまりに「これまで思考」に偏って、いままで成し遂げてきたことばかり考えていると、モチベーションを維持するどころか、むしろ弱めてしまうのだ。

 クーとフィッシュバックの研究では、目標達成に向けて努力している時にこれまでの道のりを振り返ってばかりいると、中途半端な達成感が生まれてしまい、失速し始めるということが一貫して示された。たとえば、大学で重要な科目の試験に向けて準備している大学生を対象としたある研究では、教材で学習すべき部分があと52%残っていると告げられた学生のほうが、48%を学習し終えたと告げられた学生よりも、モチベーションが大幅に高かった。

 また、すでにやり終えた仕事のことばかり考えていると、他の重要な仕事も進めておこう、と一種の「バランス」を取ろうとする可能性が高くなる。これは素晴らしいスタートを見せる人々の典型的なケースで、コンロに鍋がたくさん載っているわりに、食べられる料理は1品もできていないという状態だ。

 もしその代わりに残された道のりを考えるなら(「これから思考」)、モチベーションを維持できるだけでなく、高めることさえできる。その根本的な理由は、私たちの脳の成り立ちと関係がある。「これから思考」をすると、現在の状態と達成した状態の間の不一致に意識が向きやすくなる。人間の脳はこうした食い違いを検出すると、さまざまなリソース――注意や努力、より綿密な情報処理、意志力など――をそれにつぎ込むように反応するのだ。

 実際のところ、行動が必要だというシグナルは、こうした食い違いから送られてくる。「これまで思考」はそのシグナルを封じてしまう。現時点までの進捗に満足感を覚えるだろうが、そこから大きく前進することは難しくなる。

 仕事を成し遂げられる人は、目標への集中をそらすことがなく、道のりの途中で満足することがない。優れたマネジャーは、部下が最終的な成果から目を離さないよう注意を喚起し、節目節目の達成に対する過度の称賛や報酬を控え、仕事を完遂できる人材を育てる。激励は重要だが、チームのモチベーションを維持したければ、仕事が首尾よく完遂された時のために褒め言葉をとっておこう。


HBR.ORG原文:How to Become a Great Finisher June 22, 2011

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ハイディ・グラント・ハルバーソン
(Heidi Grant Halvorson)

コロンビア大学ビジネススクールのモチベーション・サイエンス・センターの共同ディレクター。