マクレランもまた、行きすぎた強みという問題を抱えていた。過剰な自信とプライドは、時に傲慢にも見えた。上流階級出身のマクレランは、気さくな最高司令官を見下し反抗した。リンカーンを「お人よしで粗野な人間」と見なし、「間抜け」と断じたという。やがて、マクレランの戦術面での判断力に問題があることが露見する。秩序立った緻密な計画を立て、慎重な判断を行う将軍だったが、完璧主義者であるがゆえに分析マヒに陥り、断固たる行動を取れなくなったのだ。軍事史研究者のあいだでは、北軍が1862年の半島方面包囲作戦で兵力の劣る南軍を鎮圧できず、南部連合国の首都リッチモンドの制圧に失敗し、アンティータムでははるかに勢力の劣る敵軍と血みどろの戦いを繰り広げることになった一因は、マクレランの慎重すぎるアプローチにあったとされている。

 マクレランはアンティータムの戦いよりも前に解任されるべきだった、という意見もある。リンカーンは戦争や戦略に不慣れだったために、こういった大胆な人事をためらったのかもしれない。しかしグッドウィンはこう述べる。「結局のところ、リンカーンがマクレランをその地位に長く留めてしまったのは、人を傷つけることができなかったためです」。この決断に時間がかかったために、南軍は予想外に持ちこたえ、北軍は戦略上の優位と大勢の兵士を失った。アンティータムの戦いでの犠牲者は1万2000人を超える。6週間後、リンカーンはついにマクレランを解任した。

 人事の難題に悩まされるのは、リンカーンだけではない。我々の調査によれば、昨今では経営幹部の半数以上が、部下に甘く、業績責任を追求しないという結果が出ている(アメリカ、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、アジア太平洋の5400人を超える幹部に調査を実施)。この欠点は、優れた対人スキルを持つリーダーに特に顕著に見られた。彼らは部下に業績責任を追及することを苦手としており、次の2つの危険に直面している。

 第1に、思いやりのあるリーダーは、特に相手との間に何らかの葛藤がある場合、率直になれない傾向がある。対話を完全に避けてしまうこともあれば、かなり控えめな言い方しかできないこともある――相手が事態の深刻さに気づきもせず、のんびりと立ち去るほどに。「相手を困らせたくないから」と自分自身に言い聞かせて正当化する場合、危険はさらに高まる。こういったリーダーは、自分は相手を守ろうとしているのだと思い込みたがるが、実際には自分を守っているだけである。

 優れた対人スキルを持つリーダーは、第2の危険にも留意すべきだ。マクレランに対してリンカーンがそうだったように、行動が遅きに失するのだ。人気のあるリーダーは(もし本当に好かれていればだが)、自分に対する評価が損なわれるのを恐れるために厳しい措置を敬遠する。また、平均以下の成果しか上げられない部下の長所を探し出して時間稼ぎをする。しかし、欠点を補うほどの長所がなくても待つのなら、永遠に待たなくてはならないだろう。その部下に引導を渡そうとようやく決意しても、「替わりを見つけるのは難しいだろう」とか、「いま異動させるのはまずい。つい先日も人を動かしたばかりだから」といった実行に伴う懸念を持ち出して、さらに不必要な遅れを生む。厄介な人事への対処を遅らせないためには、自己欺瞞を最大の脅威として認識しなくてはならない。

 では、優れた対人スキルを弱みにしないためには、どうすればいいのだろうか。第1に、その能力は誤ったかたちで発揮される危険を常にはらんでいる、という事実を認識しておくことだ。得意とするスキルへの依存と確信を強めるほど、リスクは高まるということも忘れてはいけない。第2に、自分とは反対の資質――他者に決然と、現実的に対応すること――の価値を理解しよう。そして最後に、優れた対人スキルとは思いやりだけではなく、その対局のように見える資質――建設的で敬意を込めながらも、厳しい措置をとる姿勢――を併せ持つことだ、という意識を持とう。


HBR.ORG原文:Can You Overdo People Skills? June 5, 2013

■こちらの記事もおすすめします
リーダーに人格は必要か
熟達者はネガティブなフィードバックを恐れない
CEOに必要な勇気