④通常からの逸脱
 ここで言う「通常」とは、「正しい」とか「誤っている」等の問題ではなく、単に多くの人々が行っていることを意味する。つまり多数意見である。一般的に人間は、多くの人々が行っている行動に追従する傾向がある。つまり、みながしていることと同じことを自分もしている分には、一定の安心感が得られるというわけだ(群れを成しているように見えることから、「ハーディング現象」と呼ばれる)。

 逆に、みんなと違うことをする場合には、何となく不安を感じるなどの反応が起きる。それも、不協和を生む原因の一つになり得る。このため、通常からの逸脱が大きくなればなるほど、意思決定への強いコミットメントが必要になる。何せ、他の多くの人たちと違うことをするわけだから、それだけ「覚悟」が必要になるのだ。

バブルの中に「認知的不協和」を見る!

 バブル発生時に冷静に判断しようとしても、その冷静な判断自体が周囲の人と異なる行動を意味するため、大きな不協和に見舞われてしまう。時として、合理的判断には相当の「覚悟」が必要である。

 一般的に、「通常=日常」であり、通常から逸脱する(=非日常的)行動をとる際、意思決定者は特に強い思い入れを持つことが多い。たとえば、バブルの最中、ほとんどの投資家が株を買いたがる。さらなる利益を手にすることができると考えるからだ。一方、ある投資家が「この相場はバブルだ」と認識して、上昇相場に参加しないことは、心の中でかなり大きな不協和が生じることも考えられる。株価がさらに上昇し続けた場合、売り向かった投資家は大きな不協和に直面することになるだろう(図3参照)。

 このように認知的不協和という現象を振り返ると、人間とは、自分の行った決断について、それが後になって「正しくない」と思っても、なかなかその意思決定を取り消せない弱い存在だといえる。一度決めた決定を、途中でひっくり返すことには(それが合理的な判断であったとしても)心理的な苦痛を伴うからである。多くの人は、そうした苦痛を味わいたくはないはずだ。あるいは、他の人がみな行っていることに、ただ追随することはとても容易い。しかも多くの人と一緒だから、不安を感じることが少ない。

 しかし、心理的な不協和を味わうことから逃避してばかりいると、正しい意思決定ができないこともわかってもらえたと思う。時にはその苦痛を味わう覚悟をすることが必要になることもある。そのときに、「認知的不協和」という言葉を思い出してみてほしい。

(つづく)

【注】
(1)サンクコスト:プロジェクトなどにおいて、一度投下すると回収できないコストのこと。「埋没費用」ともいわれる。

 

 

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