次に、投資家はリスクを推定する。図表にあるT株式では3通りのリスクの可能性が描かれている。50%で5万円の利益、10%で20万円の利益、そして40%で20万円の損失となる確率があり、これはいずれも客観的確率によるリスクウェイトだ。つまり、客観的に見ると、この投資からの期待値(平均)は▲3.5万円となり、期待値がマイナスなので「投資を行わないこと」が賢明な判断となるはずだ。

 もちろん実際には、理論で考えるほど理路整然とは事が運ばない。仮にこの投資家が1年間で20万円の利益を獲得できると考えた場合、決定の重みづけによって客観的発生確率は頭の中から消え去り、20万円は獲得可能だと認識されてしまうかもしれない。

 また、こうした主観的判断は個人のリスク許容度にも依存する。多額の金融資産を保有し、多少の損失に直面しても心理的ストレスを感じない投資家であれば、上述のような意思決定を下してもおかしくない。

 反対に、金融資産が100万円しかない投資家であれば、安全性の高い国債への投資など価格下落リスクが相対的に低い金融商品への投資でさえ躊躇してしまうこともあるだろう。

 低所得層が住宅価格の永続的な上昇への期待を過度に高め、そして、多くの投資家が住宅価格の動向次第では「諸刃の剣」となり得る消費システムに心酔した米国住宅バブルも、もとはといえば、米国の住宅価格が上昇し続けるという一種の幻想と、そこから得られると予想される利益額を大きく見たことによるものだった。それは、価値関数と決定の重みづけの融合の典型例と見なすことが可能だ。

 このように、私たちは客観的に発生確率の低い事象に対して過度な期待を持つ傾向にあり、その反面、発生確率の低いケースを過度に警戒してしまう。これはアノマリーにほかならず、バブルの温床となる要因だ。ただし、アノマリーをうまく活用することで短期的には投資成果を上げることができることも、一方で事実ではある。

(つづく)

 

 

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