たとえば特定の株式を1000円で購入した後、その株が1200円に値上がりしたとすれば、絶対値で「200円の価値」が発生していることになる。逆に、1000円で買った株が700円に値下がりすると、同じく絶対値では「マイナス300円の価値(=損失)」が出ていることになる。

 ところが、自分が感じる価値は、必ずしも絶対値のプラスマイナスと同じではない。400円儲かったときの“喜び”は、200円儲かったときの“喜び”の2倍だとは、必ずしもいえないからだ。一般的に、儲かった額が大きくなっていっても、その“喜び”は次第に逓減するといわれている。また、200円を儲けたときの“喜び”と、同じ200円を損したときの“悲しみ”は同じではないという結果も出ている。

 これらから、価値関数に関して次の法則が見えてくる。つまり、

「意思決定はリファレンス・ポイントからの距離に依存する」

利益、損失に直面した際、私たちは主観によって形成されたリファレンス・ポイントを基点として、そこからの乖離によって得られる「喜び(=効用)」をもとに意思決定を行っているのだ。

◆価値関数は、「主観」を反映する
 ここで先の例にならって、ある株式を1000円で購入したとしよう(図2参照) 。

 リファレンス・ポイントは、購入した価格の1000円である。①の局面では200円の含み益、つまり、心理的にプラスの価値が発生したことになる。一方、株価が1200円から②の800円に下落したときはどうか。損失が出ているため、当然、心理的にもマイナスの価値が発生していることになる。基本的に投資家は、そこで発生している価値に基づいて行動することになるはずだ。200円のプラスの価値が出ているとき、それをさらに増やそうと思えば、当該株式を売却せずに保有を続けることになるだろう。

 逆に、マイナスの価値が出ていても、いずれ株価が上がって、プラスの価値に転換すると思えば保有を続けるはずだ。あるいは、発生してしまったマイナスの価値に耐えられない場合には、株式を売却することになる。

 ここで注意が必要なことは、リファレンス・ポイントは変動する可能性があるという問題だ。たとえば、200円の利益が出たとき、200円のプラスの価値をすでに織り込んでしまい、さらに利益が出るまで待つことを考えるかもしれない。その場合には、株価1000円から1200円にリファレンス・ポイントが変わることが考えられる。このように、リファレンス・ポイントは、その状況における投資家の「主観的判断」によって変動する。

 さらに、投資家が主観的に感じる効用の大きさによって、意思決定が変わることも想定される。これだけを考えても、「主観的判断に依存した投資家によって構成される金融市場」が合理的だとは考えにくいはずだ。