経営資源をプラットフォーム化し、黒子に徹する

――行政とも連携されることでCSVの過当競争も抑えられているのでしょうか。

 この取り組みでは、そのような状況はまず起こりません。我々はこのCSVの活動を「プロジェクトG」と名付けました。Gはガバメント、すなわち地方自治体です。地方自治体とタイアップしてこうしたサービスをやらないと、我々が勝手にやりますと言ったところで、うまくいくものではありません。

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木川 眞(きがわ・まこと)
1949年生まれ。ヤマトホールディングス代表取締役社長。 一橋大学商学部卒業後、富士銀行入行。みずほコーポレート銀行常務取締役を経て、2005年にヤマト運輸に招聘され、2007年ヤマト運輸代表取締役社長に就任。2011年より現職。社長就任以降、新サービスや海外進出を積極的に展開している。

一方で公的セクターというのは、企業名を前面に押し出して「こういう商売をするんだ」と主張するような企業とは組めないものです。ですからこのサービスも「ヤマトだから特別にやっている」とならないよう、裏方に徹します。地元企業が現状担っていることはそのままやってもらい、地域が持たない機能を我々が提供する。つまり、我々の経営資源をプラットフォーム化して、それを地域社会に開放しているのです。同業者だったとしても、我々はその仕事を取るつもりはありません。それでは地域活性化に繋がりませんし、地方自治体はこのプロジェクトに乗れない、という結果になってしまいます。
確かに営々と築きあげてきた経営資源を開放するという思想は、これまであまりなかったと思います。しかし日本の新しい競争戦略を考えた時、インフラを共有しつつ、自由な競争をする環境をつくる方がいいと思いませんか。一方でインフラを提供する企業が、そこで収益を上げられる仕組みも持たなければ長続きはしません。試験的にインフラを提供したとしても、利用する側も事業が軌道に乗ってきたら自然と「いつまでもインフラを無料で使わせてもらうわけにはいかない」となるものです。

――そうした動きが全国各地に広がれば、総合的なインフラとしての優位性も高められますね。

 長い目で見れば、これは我々の新しい経営資源になると思います。過疎地にお住いの高齢者が、自分で車を運転して重たい物などを買いに行くのは大変です。こういった地元の困りごとの解決に自治体と協力して当たるのが我々の使命です。そうすれば圧倒的にその領域において優位を築くことができ、10年かかるか、20年かかるか分かりませんが、無意味な競争を起こさずに安定した事業として位置付けることができます。
ただ、当社が単独でできることは限られています。買い物代行も地元商店の商品供給という協力が欠かせません。お客様、地元企業、行政と当社がひとつの枠組みの中で、よきステークホルダーとして存在しているのです。

――CSVを進めるうえで障害があるとしたら、どのようなものでしょうか。

 やはり自治体やそこに住んでいる方々、地元の事業者と、納得性のある関係を維持し続けなければなりません。お互いにできることからやりましょう、という関係をつくる必要があります。
 取り組みが始まってから分かる問題もあるので、現在の枠組みに固執せずに変化させる柔軟性も求められます。だからヤマトグループの看板を掲げて動くのではなく、黒子に徹するのです。自分たちがあれもこれもやる前提でのサービス提供という形をとってしまっては、広がりは出ないでしょう。

――褒める文化の導入は、CSV推進の面でも必要ですね。

 そうですね。CSVについては数値目標を立てて取り組むというものではありません。セールスドライバーを筆頭に、社員のモチベーションを保つためには、それに合った組織風土が要求されます。風土に合わないことをやっても成功しません。そういう意味で、CSVは組織の哲学だと思います。 (了)

 


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前編:「鍛える文化」と「褒める文化」で満足を生み出す