「よく『ラグジュアリーブランドとインターネットは本質的に相性が悪い』と言われますが、私は必ずしもそうだと思いません。単に高級品を販売しようとしたら難しいのかもしれませんが、情報を発信するための手段として見れば、これほど活用しがいのあるツールもないでしょう。eLuxuryに限らず、LVMHはかなり早い段階からデジタルの持つ可能性に注目し、積極的な投資を行っていました。その試行錯誤の歴史とノウハウの蓄積があるからこそ、デジタルの分野においても、NOWNESSというブランディングの新しいモデルを作り上げることができたのです」(都築氏)

 しかし、ある意味では地道なブランディングともいえるこうした施策が、ラグジュアリーブランドの企業、それも世界最大規模を誇るLVMHになぜ必要だったのでしょうか。

ブランディングの意義は、将来のファンを育てることにある

 ファッションやラグジュアリー業界におけるインターネットの役割が情報発信に変わっていくにつれ、ブランドとメディアを巡る関係にも変化が訪れました。

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田中杏子氏
『Numero TOKYO』編集長。ミラノで雑誌や広告などに携わった後、帰国後はフリーランスのスタイリストとして活動。『流行通信』や『ELLE JAPON』の契約スタイリストを経て、『VOGUE NIPPON』創刊時より編集スタッフとして参加。2005年11月から『Numero TOKYO』編集長に就任し、1年半の準備期間を経て、2007年2月に創刊。

 インターナショナルモード誌『Numero TOKYO』編集長の田中杏子氏がこう話します。

「ブログやソーシャルメディアが普及する前は、ファッションショーの情報を発信できるのは雑誌や新聞に限られていました。それがウェブから情報を得るのが当たり前になり、カリスマと称されるファッションブロガーがマーケットを左右するほどになった。しかし、高級ファッションの情報がオンライン空間に開かれるほど、PV(ページビュー)を集めるのは結局、スキャンダルなネタに落ち着くというのもわかってきたんです」

 例えばデザイナーが新しく発表したプロダクトについて、メディアが「これはどれほど美しく、画期的なのか」ということを熱心に説くよりも、「ミランダ・カーが買いました!」などとキャッチを入れるだけで瞬間的な注目を集めてしまう――。ファッション業界で長く仕事をしてきた編集者として、そんな変化を実感すると田中氏は言います。

「もちろんそれ自体は仕方のないことだとは思います。ただ、そうした情報の注目度の高さほど、数字につながっていないんです。今はもっと本質的に、どんな人がこのブランドを買ってくれるのか、そしてどんな伝え方をすればそういう人たちに情報を届けることができるのかを、ブランド側も、我々のようなメディアの人間も考えなければならない時期に来ています。LVMHがNOWNESSを立ち上げたのも、そうした変化にいち早く気がついたからでしょう」(田中氏)