一般に、DCFにおける企業価値算定においては、以下のようなステップを辿って、株式の理論価値が計算される。

(1)予測年度における営業利益予測から、みなし税引後営業利益(NOPLAT:一般的には営業利益×(1-実効税率))を計算
(2)NOPLATに減価償却費を加算したもの(グロス・キャッシュフロー)から、事業用資産(運転資金の増加分や固定資産への投資額)を差し引いて予測フリー・キャッシュフローを計算し、
(3)各年度の予測フリー・キャッシュフロー、および予測期間以降に継続的に発生すると予想されるフリー・キャッシュフローの合計値である継続価値(公式を用いて計算)について、それぞれWACC(加重平均資本コスト=割引率)を用いて現在価値を計算したものを合算して事業価値を算定し、
(4)事業価値に非事業用資産(余剰現金など)残高を加算して、企業価値を計算した後に、
(5)有利子負債の残高を差し引いて株式の理論価値を求める。

 クレックス社の意見表明報告書においては、今後3年間の予測フリー・キャッシュフロー、継続価値の計算前提(永久成長率は0%)、割引率(4.403%)が示されているので、実際のDCF法による企業価値計算過程が、概ね復元可能なはずである。ただ、予測には「一定の幅を持たせた」と記されているので、記載以外の箇所に細かい修正がなされている可能性がある。このような限界を承知の上で、実際に筆者が企業価値算定過程の復元を試みたのが、表2である。

表2:クレックス社のDCFによる理論株価算定過程

出典:クレックス社「意見表明報告書」を基に筆者作成

 結論としては、実際に意見表明報告書において示されているDCF法のレンジは、980円~1,319円となっているので、表2の計算結果(863円)よりは高めの数値である。

 今回、営業利益、EBITDA、フリー・キャッシュフロー、割引率、継続価値の計算根拠がすべて示されているにもかかわらず、株式価値算定書の計算過程を完全には復元に至らなかったということには、注意を要する。筆者の私見ではあるが、この要因の1つとして、意見表明報告書に開示された財務予測において、表1で示したように予測最終年度(2016年3月期)において、減価償却費が1,889百万円、総投資額が3,234百万円となっていることがあるのではないかと考えている。この総投資額と減価償却費のアンバランスについて、どちらの額が長期的に維持すべき投資額に近いと考えるかによって、計算結果に大きな影響を与えるからである。