ケーススタディ:クレックス社によるMBOの意見表明報告書の開示情報から、実際の算定書の企業価値算定過程を検証する

 今回の開示内容の変更は、DCF法による企業価値評価手順を踏まえた場合に、どの程度の情報を提供しているのか。ここでは、今回の開示規則改定後の2013年10月1日に実施された、東京証券取引所JASDAQ上場のガス、ガス器具販売会社であるクレックスのマネジメント・バイアウト(MBO)取引を例に考察しよう。なお、本件に関してクレックスが提出した意見表明報告書は、金融庁のEDINETで参照できる。

 まず、確認しておきたいのは、今回開示強化が図られたのは、株式公開買付(TOB)において、買付の対象企業(被買収企業)が依頼して作成した株式価値算定書に限られるという点である。

 上記意見表明報告書では、「3-(3):算定に関する事項」の節で公開買付価格に関する詳細な記述がある。その中の「② 当社における独立した第三者算定機関からの株式価値算定書の取得」の項では、クレックス側が取得したDCF法の算定の前提となった財務予測について記載されている。

 一方、「① 公開買付者における第三者算定機関からの株式価値算定書の取得」においては、買付者(買手企業)であるSHCの取得した株式価値算定書の内容についても言及があるが、そこでは従来と同様に、各評価手法による算定結果がレンジで示されているのみであり、DCF法の算定の前提となった財務予想の記載はない。(すなわち、今回の開示強化の対象ではない。)

 MBO等の取引によって安価に株式を売却させられる可能性があるのは、買付対象企業(被買収企業)の少数株主である。したがって、その少数株主に対して、売却価格の妥当性について「意見表明」という形でアドバイスを提供する立場の被買収企業については、より詳細にその価格の妥当性の判断根拠を明らかにすべきという考え方が採用されたものと思われる。

 それでは具体的に、前日の意見表明報告書の「3-(3)② 当社における独立した第三者算定機関からの株式価値算定書の取得」において開示されている情報をDCF法に関する部分を中心に見ていこう。

 前述の開示資料においては、財務予測として、売上高、営業利益、EBITDA、フリー・キャッシュフローの順に平成26年3月期から平成28年3月期の3年間についての数値が示されている(ただし、平成26年3月期については9ヶ月分)。これを整理したのが、表1である。開示資料において、営業利益とEBITDA(営業利益+減価償却費+のれん等の償却費)が示されており、(当社はのれん等の償却は過去に実績がないため)各予測年度における減価償却費の総額が逆算できる。また、フリー・キャッシュフローの数値も開示されているので、各年度における事業用資産(運転資金や有形固定資産)への投資額も推定できる。

表1:クレックスの株価算定書の前提となった財務予測の内容

出典:クレックス社「意見表明報告書」を基に筆者作成