エシロールは調光レンズの開発プロジェクトを、PPGインダストリーズおよびトランジションズオプティカルの2社と組んで実施した。このプロジェクトには世界の20カ所以上の拠点が関与した。先行者利益を確保するために、非常にタイトなスケジュールが設定された。いったんプロジェクトが始まると、発売日に間に合わせるためには増産の工程を短くする必要があると判明した。それを実現する唯一の方法は、生産時の検証・評価プロセスを簡素化することだった。しかし、18カ所におよぶ生産施設のどのマネジャーも、そのようなリスクを取りたがらなかった。

 もし幹部による監督が緩く、意思決定の権限が明確でなかったら、このプロジェクトは行き詰ったか頓挫しただろう。しかし、同プロジェクトを統括する幹部はこのジレンマに即座に気づき、経営委員会に持ち込んだ。委員会は簡素化に同意し、そのリスクは生産施設が負うのではなく、プロジェクトに付随するものであることを明確にした。問題は解決し、ワークフローもまったく妨げられることなく、製品はスケジュール通りに発売された。

2.綿密なプロジェクト管理を行い、経験豊かな人材をプロジェクト・リーダーに起用する
 グローバルなイノベーション・プロジェクトでは、上級マネジャーの深い関与に加え、プロジェクトを日々動かしていくための強力なマネジメント・チームも必要となる。そして、しっかりとしたツールやプロセスを備えている強力なチームリーダーも求められる。すべての拠点で規律と必要な体制を維持し、共通の目的意識を持たせるために、これらが必要となるのである。

 企業はこうした課題にさまざまな方法でアプローチできる。厳格な品質管理プログラムを、グローバル・プロジェクトにおける正式な管理手法とする企業もある。シーメンスは設計・開発のためのシックス・シグマ(DFSS:Design For Six Sigma)を用いて、共通の分析ツールの設定、コーチングの提供、目標設定、フィードバック・ミーティングのスケジュール設定を行っている。これらのプロセスはすべての拠点で導入される。

 別の方法として、本社にプロジェクト管理機能を設けることも考えられる。前述のエシロールには、グローバル・プロジェクトを運営するための部門がある。ここにはさまざまな地域・分野からスタッフが集まっている。その多くが、グローバルなイノベーションの取り組みで数年間プロジェクト・マネジャーを務め、その後各自の専門分野に戻っていく。このポジションは魅力的だ。メンバーは、各プロジェクトを担当する上級幹部と密接に関わる貴重な機会を得る。また、さまざまな地域を訪問し交流を広げるため、同部門を離れる頃には異文化に関するスキルを強化し、世界中に強固な人脈を築くことができる。