日本産業の蓄積を利用させ
世界需要を取り込む

 最後に、冒頭に述べた、インフラ産業を考える際の2つ目の視点である「インフラとしての日本産業」について説明しましょう。これは、日本にある技術蓄積を産業インフラとして活用し、日本産業に副次的な経済効果を導こうとする戦略です。

 最近、東アジアの企業が日本で製品を開発し、母国で生産するケースが増えています。つまり、日本の技術蓄積を利用して開発と試作品を制作するのです。

 例えば、愛知県一宮市にある工場用ロボットの開発会社アイテックは、韓国のロボットメーカー、東部グループの開発子会社として業容を拡大しています。また、パナソニックが三洋電機を買収した際に白物家電事業を中国ハイアールに売却しましたが、ハイアールは日本で三洋の技術基盤を使って「アクア」ブランドの洗濯機や冷蔵庫を開発、販売しています。ただし製品は、中国国内のハイアールの工場で製造されているのです。

 人材がいて必要な機器もある。またあるときには、テスト市場や販売市場としても日本を活用できる。日本産業が東アジア企業の開発プロトタイピング(試作)のためのインフラとして使われるこうした事例は、これからさらに増えてくるでしょう。いわば「技術供給インフラ」としての日本が存在しているのです。

 近年、日本の産業が東アジア企業への中間財や設備機器提供のインフラとして使われるケースが多くなってきました。その代表的な例が、さまざまな電子部品です。例えば、韓国にはそれほど日系企業は多くありませんが、韓国への中間財の輸出は多い。韓国企業が買っているからです。

 貿易統計を見ると、21世紀に入ってから、日本から韓国への輸出は増加の一途をたどり、その結果として対韓国の日本の貿易黒字額は2000年の1兆円強から2010年には3兆円弱にまで膨らんでいます。この間、韓国は平均4%を超える経済成長を続けていますが、それを支えた陰の力の1つが、日本からの中間財や素材、設備機器の輸出でした。

「一衣帯水」という言葉があります。近接する国々が緊密な位置関係にあることを意味するものです。実際、日本と韓国、中国などとの距離は近く、ヒトもモノも動きやすい。距離の近さは産業間の経済距離を縮めます。東アジアの企業は、日本列島にあるさまざまな産業を、あたかも自国のものであるかのように使えるのです。

 このように書くと、「技術が流失してしまう」とか「日本技術へのただ乗り」といった批判がでます。しかし、それはあまりにも近視眼過ぎる見方です。

 技術供給から生まれる日本産業へのメリットは多様にあり得ます。第1に、技術供給インフラとして活用された実績を基に、新しい製品の開発機会を得られること。もちろん、転用や流用を避けるためのブラックボックス化も必要になるでしょう。第2に、技術そのものから対価を得る、つまり知的財産権収入を確保できること。そして第3に、技術供給から派生する需要を取り込むこと。海外企業が供給された技術を使う際には、素材や部品などの中間財需要、機械設備などの資本財需要が必ず発生します。それを取り込んでいくのです。

 そもそも供給された技術は、親和性の高い中間財や資本財が日本にあったからこそ開発されたものなのですから、これを競争力として活用しない手はない。さらに、販売後のメンテナンスやサービスという派生需要もある。

 グローバル経済とは、ある特定の国に収益を集中させることではないのです。その真意は、まさにグローバルに、どこの国にも成長の過日がもたらされるようにすることでしょう。その循環の糸口を、技術供給という立場でつくっていく。こうした認識があって初めて、日本産業再生の糸口が見えてくるはずです。