コミュニケーション相手を選べない場合には

 ではコミュニケーションの相手を選べないケースにおいて、普遍的な説得方法はあるのでしょうか。デール・カーネギーの『人を動かす』という本は、70年以上も前のものであるにも関わらず、いまだに売れていますし、より学術的な分析を行ったロバート・B・チャルディーニの『影響力の武器』もロング・ベストセラーとなっています。いろいろ本は出ていますが、結局はこの2冊に集約されていると言ってもいいでしょう。それほどに、人を動かすための原則というのは変化していないのです。


 ただ、説得においてはカスタマイズ要素も重要、と瀧本氏は指摘しました。何がその人のトリガーとなっているかというのは、かなり個人差があるので、パーソナル・アジェンダを得ることが必要になります、と述べられました。たとえば、急にパフォーマンスが悪くなった人の話をよく聞いてみると家庭が荒れているとか、子どもが病気になったというような、個人的な理由によるケースが多いそうです。そうした人たちを動かすには普遍的な説得方法によらず、その人に特化した説得方法を考える必要がある、ということです。
 影響力を行使するにあたって、コミュニケーション相手を選ぶことが一番大事なことですが、相手が選べない状況の場合、『人を動かす』あるいは『影響力の武器』に書かれているような、普遍的な説得技法を実践してみることです。それもできない場合には、諦めるか個別にカスタマイズした説得方法を試みるしかありません、と結ばれました。

 

質疑応答

 会場からは、実際のケースなどを含め、さまざまな問いかけが発せられました。
影響力のある人として、どのような人を選べばよいか、という問いかけには3つの方法を示されました。1つ目は周辺情報を集め、ネットワークを見出す正攻法。2つ目は2番手、3番手に位置する「役員にはなりそうにないがやる気のある人」を選ぶ扇動作戦。3つ目はお客様のような外的要素を選ぶ搦め手。状況に応じて使い分けることで正しい人選ができるというわけです。

 また、相手を深く理解するにはパーソナル・アジェンダを得るために、話をよく聞くことが一番ということです。人は自分の話を聞いてもらうだけで喜びを感じるため、ただ話を聞いているだけでも信頼は得やすくなるのです。それを裏付けるかのように、話の内容よりも、そこにかける時間が重要な要素であるという研究結果があるそうです。医者の訴訟リスクを抑えるのはインフォームド・コンセントにかける時間であり、良好な夫婦仲を築くのは夫婦間での会話の内容ではなく会話時間だという、興味深いお話でした。
 個人の影響力から組織の影響力に広げて考えた時には、宗教が参考になります。基本的には皆が同じ方向を向いているモノカルチャーであるため、人を動かしやすい組織となっているからです。一方で、そうした組織は環境変化に対して脆い面もあります。さまざまな事例やスキルを紹介しましたが、人々の意識を共通目標に向かわせるには、魅力的なビジョンが欠かせません。『君に友だちはいらない』にも書きましたが、魅力的なビジョンこそ、人を動かすのに最も強力で普遍的なものなのです。

 非常に刺激的であり、会場も何度か笑いに包まれるような温かい雰囲気での勉強会となり、参加された方からも満足の声を多くいただきました。具体的な事例をもって非常に分かりやすく解説し、そして率直な意見をご披露いただきました瀧本様、ならびにご参加いただいた皆様に深く御礼申し上げます。