IOCの使命は、スポーツを通じて世界平和を実現するということです。資金の確保に気を煩わすことなく、スポーツの振興と世界の人々の交流に専念したいと思っているはずです。また、政治や経済の不安で開催が危ぶまれることなく、確実に大会が実現できることも大切です。さらに、開催国に対しては、オリンピックを自国の経済の発展に利用するだけでなく、世界にスポーツの価値を届けて欲しいと願っているはずです。

 チームジャパンのメッセージは、こうした聴き手の期待に十分に配慮した跡が伺えます。スピーチの第一歩は、相手の期待を十分に把握して、メッセージを考えることなのです。

理想のスピーチは、3つのパートで構成される

 次に、構成について見ていきましょう。8人による9パートからなるプレゼンテーションは、理想のスピーチが持つ、オープニング、ボディ、クロージングの3つのパートから構成されていました。

■オープニング
 オープニングは、出だしの部分で、聴き手の関心をつかみ、心をつなげ、テーマと主張のポイントに触れ、続く本論を聴いてもらうための準備を行うパートです。3人でこの役割を担いました。

 まず、高円宮妃久子さまが、気品と威厳に満ちた話し方で、IOCの被災地支援に対して、心から感謝の意を表明し、その支援が、いかに日本の若者たちに希望をもたらしたかを伝えました。久子さまのスピーチは、IOCメンバーとの間に「心の絆」を強く感じさせるものであり、チームジャパンとIOCメンバーのつながりを築く役割を果たしました。また、皇室の一員が困難を押してこの場に来たことで、日本がいかにこのプレゼンテーションの機会を大切に思っているかがおのずと伝わり、それがIOCメンバーからの信頼を得ることにつながったと思われます。

 次に、パラリンピアンの佐藤真海選手がスポーツの力について語りました。片足の切断と、実家が津波の被害を受けた困難をスポーツの力で乗り越えることができたという経験を語りました。人々に夢と希望を与えるスポーツの素晴らしさを、世界に広めることが東京のビジョンだと述べました。スクリーンに映し出された義足でジャンプする姿や、被災地支援に集まるアスリートたちの姿と合わせて、IOCメンバーをハッとさせたに違いありません。佐藤選手の困難を克服したストーリーは、聴き手の心を大きく揺さぶったことでしょう。

 そして、オープニングの最後では、竹田恆和招致委員会理事長が、オリンピック成功の3つの条件について語りました。①財政・スポーツ両面からのオリンピック・ムーブメントの成功、②大会の確実な成功、③グローバル・ビジョンが必要であることに触れ、東京はこれら全てを実現できる都市であることを強調しました。そして後に続くプレゼンテーションで、それぞれの詳細を説明していくと述べ、話を締めくくりました。竹田理事長のこの出だしは、東京の強みを分かりやすく説明するために不可欠なものであり、本論へのガイドの役割を果たしていました。