連想マップの手法を用いて大まかな関心を想像し、これらの質問に答えることで、直接聴衆にヒアリングをすることができなくてもある程度の想定を置くことは可能です。

 ジョブズはおそらく、人並みのことを言うのでは面白くない、聴衆をアッと言わせたいと思ったに違いありません。きっと、こんなことが頭に浮かんだのではないでしょうか。

「おおかたの卒業生の関心は、どうすれば社会で成功できるだろうか、ということだろう」
「自分に対しては、アップルを成功させた秘訣を聴きたがっていることだろう」
「一般的には、これらの関心にダイレクトに応えるスピーチが多いだろう」
「しかし、人生は失敗や困難の連続だし、真の幸せは、会社を大きくすることでも、お金を儲けることでもない。自分の失敗談も含めて、人生における真の満足とは何か、迷ったときに何を頼りにすべきか、などについて本音を語ることが、卒業生にとって最もためになるのではないだろうか」

 ウォルター・アイザックソンが書いたジョブズの公式伝記『スティーブ・ジョブズⅡ』(井口耕二訳、講談社)によれば、このスピーチの準備には直前まで悩んでいたとのこと。

 あのジョブズですら、聴衆の関心を探るのに苦労したのです。しかし、聴衆が何を求めているか、その期待を上回るにはどうすべきかを考え尽くし、その甲斐あって、伝説のスピーチが生まれたというわけです。

(本連載、終了)

*スピーチの核をつくるために、メッセージをどう絞り込むか、話を効果的に組み立てるさまざまな技術、さらにはリハーサル、本番まで、具体的なステップは以下の書籍をご覧ください。

 

 

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佐々木繁範[著]
直接語りかける言葉には、聞き手の心を動かす力があります。ソニー盛田昭夫、出井伸之元CEOのスピーチ原稿を担当した著者が、スティーブ・ジョブズなど世界の名スピーチを徹底解剖! ストーリー構成から話し方、当日の心得まで、基本プロセスをすべて網羅。聴衆の感情と行動にインパクトを与えるスピーチづくりのコツを教えます。


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プロローグ スティーブ・ジョブズのスピーチは、なぜ人々の心を打つのか
ジョブズ伝説のスピーチに見る、大きな影響力/三つの項目でジョブズのスピーチを分析する/論理性、情熱、信頼性が揃ったときに心は動く/感動のカギは、スピーチ原稿にあり

part1 スピーチの核をつくる

1章 相手を知る:どんな場で、聴衆は何を期待しているか
日本人のスピーチ下手は過去のこと/スピーチとは、組み立てられた話/スピーチの殿堂、TEDカンファレンス/スピーチとプレゼンの違い/大前提は、場と聴衆を把握すること/何のために設定された場か、主催者は何を求めているか/聴衆は誰か、何を求めているか

2章 メッセージを絞る:最も伝えたいことを明確にする
スピーチ全体を通じて一つのメッセージを伝える/ジョブズはどうやってメッセージを決めたのか? /連想マップを活用してメッセージをつくる/最も伝えたいことは何か

part2 話を効果的に組み立てる

3章 全体構成とボディ:伝わりやすい構造、順番を考える
全体の構造はすっきりシンプルに/スピーチの根幹、ボディの基本パターン/ビジネスパーソンにとって身近な「ポイント提示型」/聴衆に具体的なアクションを促す「問題解決型」/心が動く、共感を呼ぶ「ストーリー型」/ストーリー展開のコツ

4章 オープニング:導入部で聴衆の注意を引きつける
聴衆をつかむオープニングとは/ジョブズのオープニングは、直球勝負/より正統派の、J・K・ローリングのオープニング/真心が伝わる、ブータン国王のオープニング/押さえるべき五つのポイント

5章 クロージング:記憶に残る終わりかた
締めくくりかたで、スピーチ全体の印象が変わる/ジョブズが選んだのは、若き日の思い入れのある言葉/有名な古典で教訓を伝えた、J・K・ローリング/祈りのパフォーマンスに思いを込めた、ブータン国王

part3 原稿づくり、リハーサル、そして本番!

6章 リハーサル:原稿づくりから前日の準備まで
スピーチ原稿を準備する/ステップ① 基本構想/ステップ② アウトラインの作成/ステップ③ フルテキスト原稿の作成/ステップ④ 言葉磨き/リハーサルのポイント

7章 デリバリー:壇上での立ち振る舞いから質疑応答まで
感動の本質は、聴衆と心が通い合うこと/演台に上がる前の心の準備/声を響かせるには/目線と、身振り手振り/予期せぬトラブルにどう対処するか/質疑応答のポイント

エピローグ スピーチライターの仕事
盛田昭夫会長との出会い/出井伸之社長とIT戦略会議/アメリカのスピーチ事情を学ぶ/点と点は、必ずつながる