だが、銀行の方針が顧客を満足させる妨げになっている場合は、従業員は顧客に単純にノーと言うことはできない。代わりに、上司にアドバイスとサポートを求めなければならない。なぜだろうか?TD銀行のリーダー達は、創意工夫をして解決策を見出すよりもマニュアルに沿って処理して次の顧客に対応する方が簡単であることを知っているからだ。従業員に追加のアドバイスを求めるように業務付けることで、顧客に対してノーと云い難くし、簡単に断ってしまわないようにするためだ。

 アメリカン・エキスプレスのグローバルのサービス業務を主導するジム・ブッシュは、同様のシステムを構築した。彼は、コールセンターでのやり取りを書きおこした原稿や、行動に基づく伝統的な品質管理指標、そして平均処理時間の制限をなくした。コールセンターの経費をコントロールすることに重点が置かれた伝統的生産性指標に注力するのではなく、カード会員による情熱ある推奨を得るために鍵となる成功指標を作った。アメリカン・エキスプレスのフレームワークでは、時間制限の代わりにガイドラインを、電話対応原稿の代わりに個人の判断を、そして管理指標の代わりにコーチングを使っているのだ。

 なぜこれが上手くいくのだろうか?従業員が、基本的な事業目的を達成する方法を見つけ出すことに深く関わっているからだ。ブッシュと彼のチームは、従業員がどのようにして結果を達成するのかを命令するのではなく、各々の業務が上手くいっているか否かに関する十分なフィードバックを与えるようにした。従業員は、共通する顧客問題への解決策を考案し共有するようになったため、新しいシステムの下ではサービスにかかるコストは低下した。それでいて、同社の推奨者の顧客は、それまでよりも10-15%多く支出し、定着率も断然良くなっていることが確認された。

 規制が厳しい業界、そして良心の無い顧客によって奪取される可能性もある事業環境でビジネスをするにあたり、アメリカン・エキスプレスは当然ルールや方針を持っている。しかし、それと同時に、事業目的の達成にいかに自分が貢献しているかについて洗練された理解を持つ顧客応対の専門家となった従業員には、大きな自由度を与えることも可能なのだ。

 従業員が顧客を喜ばせるために「何でも」出来るような自由度を与えてはならない。無一文にならずに顧客ロイヤルティを獲得したいと願うのであれば、従業員が成功できるようなフレームワークを整備するという骨の折れる仕事をしなければならない。

●成功の定義を明らかにする:利益源となる推奨者の顧客を創ること
●彼らが独自に運営できるような明確なガイドラインを提供する
●学習を支援すべく、シンプルなフィードバックを迅速かつ頻繁に提供する

 与えたフレームワーク内できちんと自由度を与えることで、従業員は自ら物事を推進し学べるようになり、それは顧客ロイヤルティの獲得につながり、企業の収益性や持続的な成長につながる。その結果、従業員離職率の劇的な低下、コスト低減、そしてより高い顧客ロイヤルティがもたらされる。簡単に言うと、戦略的そして財務的な成功をもたらすのだ。


HBR.org原文:Earn Customer Loyalty Without Losing Your Shirt July 17, 2012

 

ベイン・アンド・カンパニー(Bain & Company)
1973年に創設。世界32ヶ国に50拠点のネットワーク、約5700名を擁する世界有数の戦略コンサルティングファーム。クライアントとの共同プロジェクトを通じた結果主義へのこだわりをコンサルティングの信条としており、結果主義の実現のために、高度なプロフェッショナリズムを追求するのみならず、きわめて緊密なグローバル・チームワーク・カルチャーを特徴としている。