「クラウンというブランドは、『いつかはクラウン』というキャッチコピーで親しまれたように、高度経済成長期のシンボルであり、あこがれのステータスでした。しかし、バブル崩壊後に経済成長が頭打ちになると、その『いつか』がどんどん遠くなって、手の届かない存在になってしまった。だからこそ、ステータスよりもサステナブルな価値観が求められる今の時代に、女性や若者世代の共感を得られるカラーとしてピンクを選んだ。クラウンを広く愛される高級車へと再生し、消費者の手元に引き寄せてもらおうと考えたのです」

土橋代幸氏
株式会社トヨタマーケティングジャパン取締役プロデュース局局長。1984年トヨタ自動車株式会社入社。2011年よりトヨタマーケティングジャパンにてアド(広告)制作室長を担当し、2013年より現職。

 実際、今年9月に1ヵ月限定で予約を受け付けたところ、「ピンクのクラウン」の注文は650台。朝日新聞の報道によると、購入者の内訳は女性が35%で従来の7%を大きく上回り、年齢別でも30代以下が18%、40代が24%で計4割と従来の2割に比べて大きく若返っているそうです。

「展示会に同じモデルを並べても、色が黒や白だと女性は立ち止まってくれない。しかし、ピンクはかなり反応が良かったし、実際に注文もいただいている。『クラウン=中年男性向け』というイメージだったのが、ピンクになったことで若者世代や女性にも自分ゴト化してもらえたのだと思います」(土橋氏)

 元『広告批評』編集長の河尻亨一氏も言います。

「トヨタも開発を進める自動運転カーに象徴されるように、将来的には自動車もマーケットの多様化が一層進んでいくことが予想されます。そういった状況において既存ブランドが存在感を示すには、大胆な“攻め”の姿勢を見せることが必要なのではないでしょうか。クラウンのピンクに対しては賛否両論あると思うのですが、クルマの購入を考えている若者や女性がトヨタに対して、『新しいことをやろうとしている会社なのではないか?』という印象を持ちやすくなったのは確かでしょう。少子化が進むなかで、将来を見据えるためには新しいファンを獲得していく必要がある。『ピンクのクラウン』は、話題作りのキャンペーンとして成功しています」

河尻亨一氏
元『広告批評』編集長。現在は東北芸術工科大学客員教授、銀河ライター主宰。雑誌・書籍・ウェブサイトの編集執筆から、企業の戦略立案およびコンテンツの企画・制作まで、「編集」「ジャーナリズム」「広告」の垣根を超えた活動を行う。

 もちろん、“ピンクになったから、女性や若者にウケました”というだけでは、ほかにもピンクの自動車はたくさんあります。それなのにどうして、クラウンは話題になったのか?

「クラウンというブランドの核は、長年の間に積み重ねてきたイメージにあります。高品質で、日本の道路にもっともフィットした高級車という信頼性です。それがあるからこそ、ピンクになっても高級感を損なうことなく、成功に結びついたのでしょう」(前出・土橋氏)

 ちなみに、「ピンクのクラウン」はハイブリッド車でもあり、軽自動車に迫る燃費向上を達成しています。見た目だけでなく、細かいところにも歴史に裏打ちされた技術力を発揮する。それこそがラグジュアリーという価値観の源泉であり、「ピンクのクラウン」を高級車たらしめているのです。