こうした方向性の転換を、トム・フォードは“サステナブル・ラグジュアリー”という言葉で表現しています。

「世界的ファッション・ジャーナリスト、スージー・メンケスが、インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙に書いた記事(2009年3月24日)によると、彼女が司会を務めた、インドのニューデリーでの『IHTラグジュアリー・コンファレンス』において、デザイナーのトム・フォードが、つぎのようなヒントをくれたのだという。

『私に“サステナブル・ラグジュアリー(※持続可能ラグジュアリー)”というテーマを与えてくれたのは、実はワン・シーズンだけの最新流行バッグという概念の生みの親であるトム・フォードだった。彼はモスクワで催された“最上のラグジュアリー”と題するパネルディスカッションで、すでにそのコンセプトが心地良くないと語っていた。さらに近い将来、環境に配慮したことを謳うタブのほうが、ブランドのロゴよりも消費者に強くアピールするだろう、と』」(菅付雅信氏『中身化する社会』より)

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現在のトム・フォードは、従来のセクシーさは残しつつも、より古典的かつ普遍的なファッションを追求している。写真は「TOM FORD」のスーツに身を包み、2013年のグラミー賞で新曲を披露したジャスティン・ティンバーレイク。(写真:Getty Images)

 単に環境に優しいだけでは、サステナブルであってもラグジュアリーとは言えません。トム・フォードが提唱する“サステナブル・ラグジュアリー”とは、その時々のトレンドを鋭く捉えた最新ファッションではなく、25歳から75歳までの世代を超えた人々から愛されるような普遍的な高級品でもあるのです。

 トム・フォードは“サステナブル・ラグジュアリー”という概念によってラグジュアリーの概念をイノベーションしようとしています。その一方、日本の高級車市場には「ステータスから脱却」を目指すことで、サステナブル時代のラグジュアリーを表現し、人々から愛されているブランドがあります。それは、トヨタの「ピンクのクラウン」です。

「いつかはクラウン」から「ピンクのクラウン」に

「ピンクのクラウン」(正式名称は「クラウン アスリートG“ReBORN PINK”」)はサステナブル時代のラグジュアリーブランドに2つの教訓を与えています。

 まずひとつは、トム・フォードと同じように、「世代を超えて愛されるブランドを目指す」こと。もっとも、トム・フォードは「最新トレンド=若者」というイメージの刷新を目指しましたが、トヨタの場合は旧来の顧客層であったエグゼクティブ層の男性から、若者や女性の取り込みを課題としました。

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正式名称は「クラウン アスリートG“ReBORN PINK”」。再生にふさわしいインパクトを与えた。

 2012年12月に行われた14代目クラウンの発表会で、トヨタの再生を誓った「ReBORN」というコンセプトのもと企画された「ピンクのクラウン」が登場し、しかも市販されることが発表されると、会場内では大きなどよめきが起こりました。つまり、従来のクラウンのイメージから、それほど“予想外”なものだったのです。

 クラウンの意外な再生について、トヨタマーケティングジャパン取締役の土橋代幸氏はこう説明します。