●相手の押しの強さに負けないくらい、毅然とした態度を取る
 簡単には引き下がらない依頼主もいる。それが彼らの特権だ。しかし、上記のルールのどれかを破らなければ、相手と同じだけ強硬な態度に出ても構わない。そうすれば、相手はあなたに敬意を払うようになる。「あなたが簡単には諦めないのはわかっています。でも、私もそうなんですよ。ノーと言うのが、だんだん得意になってきていますからね」などと言ってのけるのもいいだろう。

●練習する
 簡単にノーと言える、リスクの低い状況を選んで練習してみよう。たとえばウェイターに「デザートはいかがですか」と聞かれた時だ。道で何かを売りつけられそうになった時でもいい。自分の部屋に入って扉を閉め、大きな声でノーと10回言ってみよう。ばかみたいに聞こえるが、「ノー・マッスル」を鍛えることは有効なのだ。

●先手を打ってノーと言う
 繰り返し――時に厄介な――頼みごとをしてくる人というのは、誰の周囲にもいるだろう。そういう場合には、頼まれる前にノーと言うといい。あなたは人生で最も重視しているいくつかのことがあって、それ以外の領域での負担はなるべく減らしたいと考えていることを、その人にわかってもらうのだ。そういった依頼をしてくるのが上司なら、あなたが何を優先すべきかについて、あらかじめ率直に話し合っておこう。その後依頼が舞い込んできたら、その会話を思い出してもらえばいい。

●チャンスを逃すことを恐れない
 チャンスを逃したくないからノーと言いたくない、という人もいる。断れば、必ず何らかのチャンスを逃すことにはなる。しかし、それは単に「逃したチャンス」ではなく、トレードオフなのだ。依頼に対してノーと言うことで、あなたはもっと価値を置くほかの何かにイエスと言っているのだ。このことを自覚しておこう。どちらもチャンスであって、あなたは一方を優先しているにすぎない。

●勇気を出す
 イエスと言うことに慣れている人は、ノーと言うには勇気が必要だろう。相手が簡単に諦めないなら、なおさらだ。薄情な友人になってしまうような気がするだろうし、相手を失望させてしまうとか、期待に添えていないと感じるかもしれない。悪いイメージを持たれてしまう、とも考えるだろう。しかしこういった犠牲を払うことで、人生を取り戻せるかもしれないのだ。それに耐える勇気が、あなたには必要だ。

 アイリーンがこれらの習慣を取り入れてからは、次第に仕事の時間が減り、子どもたちと一緒に過ごせる時間が増えていった。仕事では相変わらず優秀だし、上司や同僚にも評価されている。しかし自分が以前とは変わったということも認識されているようだ、と彼女は言う。それらの変化は、必ずしもよいことだけではない。

 周囲は彼女の境界線を尊重するようになっている。そのために腹を立てているようには見えない。しかし、彼女には諦めなくてはならないことがあった。それは、彼女自身も重要だと気づいていなかったこと――「自分はなんでもやってのける」という自己認識だ。常にイエスと言っていた頃よりも、自分が尊重され必要とされている、という感覚は薄れているという。

「もう一度、何に対してもイエスという自分に戻りたいですか?」と私は尋ねてみた。

 彼女は練習の成果を見せ、しっかり「ノー」と答えた。

※個人名と細部は変更している。

 

HBR.ORG原文:Nine Practices to Help You Say No February 15, 2013
 

ピーター・ブレグマン(Peter Bregman)
CEOおよびリーダーにアドバイスを行う戦略コンサルタント。最新刊は『最高の人生と仕事をつかむ18分の法則』(日本経済新聞出版社)。