これは見事な例えであると思う。組織を最もうまく機能させるのは、異なる部門間のハーモニーであり、全社的に統一された業務慣行ではない。たしかに買収後の協調は不可欠であり、ポールのグループは親会社に対してこの義務を果たしている。だが、全員が同じことを、同じ方法でやるべきだとするのは無謀な考えである。

 幸いにもCOOは聡明だったので、ポールの説明を聞き入れて、グループに余計な口を出すのをやめた。以降、彼らは成果を上げて会社に貢献することができた。しかし一方で、買収された他部署にはそうでない同僚たちもいた。元々の強みを維持しながら買収後の新たな企業文化に適応する、ということができなかったのだ。会社を去った優秀な科学者もおり、イノベーションへの意欲を失った社員もいた。

 数年後、ポールは本社の経営幹部と話す機会があった。この幹部は、買収時に間違いを犯したことを認めた。買収によって獲得できる最も価値ある資産は、特許だと考えていたそうだ。しかし今では、社員の能力と創造性、そして仕事への創造的な取り組み方こそ、かけがえのない資産であることを理解しているという。

 我々と同じように、「そんなの当然のことじゃないか」と感じる読者もいるかもしれない。利口で善意あるはずのトップの人間が、なぜ特許よりも重要なものがわからなかったのだろうか。なぜポールの会社を我が物顔で管理しようとしたのだろうか。それは、特許がもたらす短期的な利益を優先したからであろう。有能な人材がもたらす長期的なイノベーションの可能性を、軽視したからである。

 これらの人材は、よき支援が得られる環境であれば、一丸となって優れた働きを見せる人々だ。我々の研究から、社員が献身的に働き優れたパフォーマンスを見せるのは、彼らが組織から評価されていると感じる時であることが明らかになっている。新興企業に成功をもたらした文化を壊そうとした時から、買収企業はみずからの将来を危険にさらすことになったのだ。

 おそらくこれが、企業買収のほとんどがうまくいかない理由の1つだろう。買収企業と被買収企業の文化には、大きな隔たりがあるとされることが多い。だが、両者の均一化をはかるための過剰な取り組みが、一方の長所、もしくは双方の長所を抑圧してしまうのである。読者の皆さんは、どのような経験をお持ちだろうか。


HBR.ORG原文:Make Acquisitions Sing, with Harmony June 27, 2012

 

テレサ・アマビール(Teresa Amabile)
ハーバード・ビジネススクール(エドセル・ブライアント・フォード記念講座)教授。ベンチャー経営学を担当。同スクールの研究ディレクターでもある。

スティーブン・クレイマー(Steven Kramer)
心理学者、リサーチャー。テレサ・アマビールとの共著The Progress Principle(進捗の法則)がある。