●実験を可能にする仕組みをつくる
 ブランクが挙げる重要なポイントに、建物のなかに答えはない、というものがある。起業家は市場で学ぶ必要があるのだ。市場からの学習を推進する方策はある。消費財メーカーであれば、従業員が買い物をする社内店舗を使ってアイディアをテストする。通信会社であれば、小さい二次的なネットワークをつくり、そこでアイデアを試してみる。これで何百万人もの顧客へのサービスを阻害するリスクを避けられる。B to Bサービスを提供する企業には、新たなアイデアの実験台となってくれるような顧客企業が何社かあるかもしれない。こうした仕組みは、テストの実行に伴う軋轢を減らす。そして、学習のプロセスを加速させる。

●人材を慎重に選ぶ
 私はこれを「ジョーダンの誤り」と呼んでいる。マイケル・ジョーダンがシカゴ・ホワイトソックスの2Aチームで過ごした1年間に、敬意を表してのことだ。ジョーダンは間違いなく、これまでで最高のバスケットボール選手の1人だ。だが、バスケットボールを離れてほかのスポーツを始めた彼は、そのスポーツ(野球)を極めることに生涯を費やしてきた選手たちにはかなわなかった。もちろん、ジョーダンは全人口の99%の人よりは野球が上手いだろう。しかし、ワールドクラスではなかったのだ。

 企業もジョーダンの誤りに陥る。それは企業内の最も優秀な人材、つまり既知のビジネスモデルの遂行に長けた人に対して、一夜で起業家に変身し、未知のビジネスモデルの巧者になるよう命じる時だ。だからといって、イノベーションの仕事を外注するべきだとか、まったく新しい人材を採用すべきだということではない。イノベーションの取り組みには、社内のシステムをどう動かすかを知っており、自社の競争優位を生んでいる模倣しにくい独自の資産についてよく理解している人材を含めるべきだ。この役割に適した人物は、高業績を上げている人たちではなく、組織の端のほうに潜む「異端者」のなかにいるかもしれない。

●リーンがもたらす影響に備える
 私の同僚のマーク・ジョンソンは著書『ホワイトスペース戦略』(2011年、阪急コミュニケーションズ)のなかで、企業のビジネスモデルがやがては暗黙のルールや基準、指標などを生み、それらが事業の運営を支配するようになると論じている。リーン・スタートアップの手法に従えば、あるベンチャーへの資金提供について素早く決断する必要に迫られるかもしれない。あまりにも障壁が多いアイデアはすぐに取り止める、という姿勢が必要になるかもしれない。あるいは、通常の品質管理プロセスを通過させる前に、アイデアを市場に投入することになるかもしれない。

 厳密な年間計画プロセスを持つ企業や、非常に慎重でコンセンサスに基づく意思決定を行う企業は、リーン・スタートアップの手法を全面的に受け入れるのに苦労するだろう。そうしたやり方はリーンの手法と相容れないことが多いからだ。リーダーは、資源配分、ポートフォリオ管理、インセンティブの仕組みが、矢継ぎ早の実験(リーン・スタートアップの特徴である)を推進するものとなるよう、注意深く取り組む必要がある。

 企業には、リーン・スタートアップにつながる文化を築くチャンスがふんだんにある。ブランクによると、クアルコム、ゼネラル・エレクトリック、インテュイットは、すでにそうした文化を築いているという。上記の3つのポイントを覚えておくことで、企業はリーンの文化を理論として唱えるだけでなく、実際に築くことができるだろう。


HBR.ORG原文:Looking to Join the Lean Start-up Movement? April 26, 2013

 

スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイト マネージング・ディレクター
ダートマス大学の経営学博士・ハーバード・ビジネススクールの経営学修士。主な著書に『明日は誰のものか』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションの解 実践編』(共著)などがある。