●時差出勤
 金融大手のHSBCインドでは、以前は午前8時30分出社が原則だった。インドの劣悪な交通事情のために、従業員の多くが明け方に家を出なくてはならない。3年前に時差出勤が認められたことによって、自分の都合に合わせて出退社できるようになった。午前10時から午後4時のピーク時を挟み、1日9時間勤務さえ守ればよいという条件付きだ。組織開発担当副社長のニクンジ・ウパッダイは、9時30分に出勤すればよくなり、「かなり融通が利くようになっています」と言う。「朝の時間をエクササイズやヨガに当てています。自分のために使えるとても貴重な時間です」。時差出勤などのフレックス制を導入した結果、同社は業界で最低の離職率を記録している。

●在宅勤務
 欧米ではバーチャル・ワークがますます増えているが、多くの新興国市場ではまだ珍しい。顔を合わせて仕事をするという伝統が、いまだに支配的なのだ。「通勤は、たいへんな時間のムダです」と、北京に本社を置く金融機関の上級管理職はこぼす。通勤しなくてもよければ1日2時間は余裕ができ、クライアントのためにも家族のためにももっと時間を使えるはずだと言う。「四六時中、オフィスにいなくてはならないとは思いません。社内業務の多くにはテレビ会議が使えます。それに、社員が結果を出すなら、ほかに何が問題でしょう?」

●通勤時の保護
 拙著の執筆に際しインタビューしたブラジル人女性のほぼ全員が、路上強盗の被害に遭ったことがあると答えた。オフィスのすぐそばでの被害が多い。米国国務省の最近の報告書は、サンパウロとリオでは、「武装した犯人による暴力的犯罪が日常的に起きている」と警告する。ある女性従業員が社長に危険を訴えたところ、女性にボディーガードがつくシステムが導入された。「社長は理解のある人でした」と彼女は振り返る。「女性が仕事熱心なために、遅くまで働いているということに気づいていました。そこで、『夜7時以降に退社しなくてはならない場合には、誰でもバス停や駅、駐車場まで、ボディーガードをつけよう』と言ってくれたのです。それからは安心できるようになりました」

●代替交通機関
 インドのほとんどのハイテク企業は、通勤用のバスやバンを用意し、最寄り駅や特定の場所とオフィスの間を走らせている。グーグルはさらに一歩進み、ハイデラバード、バンガロール、グルガオンで働く1200人余りの従業員に、オフィスと自宅を往復する相乗りタクシーを提供している。ベテランのドライバーとエアコン付の清潔な車を提供する、タクシー業者との契約によるものだ。蒸し暑いインドでは大助かりである。そして何より、このサービスは無料なのだ。

 仕事はオフィスの壁の中で完結するものではない。多くの女性にとって、自宅の玄関を一歩出た時が仕事の始まりだ。その次に何が起きるかによって、その日の生産性が大きく左右される。さらには、どこで働きたいのか、どのようなキャリアを追求するのか、特定の地位を受け入れるかどうかも大きく左右される。企業は、通勤の苦痛など知ったことではないと考えるかもしれない。しかし、従業員のためにやれることがあるのは明らかで、それを実践すべきである。ラッシュアワーの苦痛をほんの少し緩和することによって、成長市場で女性人材を引きつけ、確保し、最大限活用することができるのだ。

※訳注:この順位は2010年の調査による。2011年の最新調査では、自動者通勤の苦痛度の上位6都市は上からメキシコシティ、深センおよび北京(同率2位)、ナイロビ、ヨハネスブルグ(南アメリカ)、バンガロール。


HBR.ORG原文:Women in Emerging Markets Need Safer Commutes September 14, 2011

 

シルビア・アン・ヒューレット(Sylvia Ann Hewlett)
非営利の研究機関、センター・フォー・ワークライフ・ポリシーの創設者、所長兼エコノミスト。

リパ・ラシッド(Ripa Rashid)
センター・フォー・ワークライフ・ポリシーのシニア・バイス・プレジデント