ユニ・チャームに学ぶ
新興国ボリュームゾーン開拓法

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和僑が活躍する
海洋国家の再来

 華僑や印僑のように、世界各地に住みつく日本人を、筆者は「和僑」と呼んでいる。 日本人は、島国に閉じこもった農耕民族と思われがちだが、鎖国以前は、海を渡る「和僑」がいた時代もあった。タイのアユタヤをはじめ、マレーシア、ベトナム、カンボジアにも日本人町があり、彼ら和僑たちが中心となって古くから海洋貿易が行われていたのである。

 国際政治学者の故・高坂正堯氏が『海洋国家日本の構想』を上梓して話題を呼んだのは、半世紀前になる。最近では、竹島、尖閣諸島など、領土問題が取りざたされているが、島国としての日本は、海洋国家としての平和的な発展の道筋を、今こそ国家の成長戦略の基軸にすえるべきではないだろうか。

 21世紀の社会課題の「先進国」とでもいうべき日本。人口減少、高齢化、医療費の増加、食品の安全、エネルギー問題など、世界が今後直面する課題を世界に先駆けて解決し、そのプロセスを世界に向けて移植していく役割が期待されているはずだ。

 そのためには、まず日本人スタッフ自らが現地で深く根をおろす覚悟を決めること。ユニ・チャームには、こうした「和僑」が多い。日本に帰国しても、一度どっぷりとアジアの現地体験をした人は、別の国の事案でも想像力が働く。そしてそのような現地発の嗅覚が、研究開発やマーケティングにも活かされていく。

 早くから、インドで「国民車」ともいうべき圧倒的なポジションを築いているスズキ。地元の「ヤクルトレディー」を組織化して、アジアの津々浦々まで商圏を広げているヤクルト。ユニ・チャームに限らず、アジアで成功している日本企業に共通しているのが、日本流のオペレーション力を現地に根付かせることに喜びを感じる「和僑」型人材の層の厚みである。

 グローバル企業のあるべきモデルとして、「トランスナショナル企業」論がよく知られている。ハーバード・ビジネス・スクールのクリストファー・バートレット教授らが提唱したモデルだ。地球規模でスケールメリットを生かしつつ、現地市場に合わせて柔軟に対応する。 そのために、世界に広がった部門間、事業間においても知を共有し、学習優位を確立すべきと説く。

 この「X(トランス)ナショナル」こそ、X型経営を実現するうえでの3つ目の切り札となるはずだ。そしてそのためには、まずは、担い手となる日本人自身が、島国から飛び出して、X(トランス)ナショナルに活躍する和僑となる覚悟が求められる。

 本シリーズでご紹介した日東電工、ファーストリテイリング、そして今回のユニ・チャーム。いずれも、日本で各企業のDNAをしっかりと受け継いだ人が、現地に行き、現地の人にそのDNAを引き継ぐことで成長している(「X(トランス)ナショナル」企業だ。そしてそのような和僑が、華僑や印僑などの異質な知恵と新結合(「X(クロス)カプリング」)することによって、リバース・イノベーションを生み出している。そのイノベーションを通じて、自らの強みとDNAを新しい地平へとずらし続けていく(X(エクス)テンション)。

 このように、3つのXを梃子に、事業モデル構築力と市場開拓力を掛け合わせ(X)ながら、磨きをかけていく。オペレーション力に依存してきた日本企業が、これら3つのXを実践することによって、競争優位を超越する学習優位を獲得し、次世代成長を実現し続けるX型企業へと大きく進化していくことを、今こそ期待したい。

 

【連載バックナンバー】
第1回 「日本企業が持続的競争優位を築くために
    どのような経営を目指すべきか」

第2回 「日東電工から学ぶ事業領域の持続的拡大」
第3回 「ファーストリテイリングに学ぶ「緊密な連携」による新結合」

今月のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー