日本企業復権の切り札

「いいものを安く」というスマート・リーン経営は、かつて強かった頃の日本企業の勝ちパターンでした。しかし、グローバル化の流れの中で、多くの企業がコストを軽視した高付加価値ゲームに邁進してしまいました。その結果、かつては欧米企業を、クリステンセン教授の言う「イノベーションのジレンマ」に追いやっていたはずの日本企業が、いつのまにか自らその立場に陥ってしまったのです。日本的経営を貫いて快進撃を続けていた日本企業が、欧米流の経営モデルの罠にはまって失速してしまったというのは、あまりにも皮肉な話です。

 かつてのトヨタやセブン-イレブン・ジャパン、最近でも任天堂やユニクロが、「スマート・リーン」を基軸とした日本的経営の本質的な強さを証明しています。ただしその際には、スマート軸を技術や機能といった商品側からではなく、体験価値という顧客側の視点で捉えなおす必要があります。また、リーン軸に磨きをかけるためには、何を内に残し何を外に出すか、をしっかりと見極めなおす必要があります。かつての勝ちパターンに原点回帰するだけでなく、スマート軸・リーン軸いずれも数段のバージョン・アップが求められるのです。

 特に、これから成長が期待される新興市場のボリューム・ゾーンを攻めるには、これまでの日本流の経営モデルを横展開したのでは、まったく歯が立ちません。ノキアのインド攻略のケースは、スマート・リーン戦略をバージョン・アップしていくうえで、日本企業にとっても示唆に富んでいます。

 単なる懐古趣味に堕さないためには、自社のDNAをスマート軸・リーン軸双方の観点からしっかり見つめなおす必要があります。そのうえで、よきDNAを呼び覚まし、悪しきDNAは組み換えるといった緻密な経営努力が求められます。ジョブズ復帰後のアップルの再生は、本来の戦い方を見失った日本企業が大きく舵を切りなおすうえで、大いに学ぶべきでしょう。

 欧米の経営理論に惑わされることなく、「スマート・リーン」経営を貫き通す――それが日本企業復活に向けた切り札となるはずです。次章では、どうすればスマートとリーンの良循環を生み出すことができるかについて考えてみましょう。

(連載はここまで。続きは書籍『学習優位の経営』をご覧ください)

【注】
(1) ジェフリー・イメルト他著・関美和訳「GEリバース・イノベーション戦略」(『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2010年1月)

 

【書籍のご案内】

学習優位の経営――日本企業はなぜ内部から変われるのか

市場でのポジショニングを重視する欧米型の戦略論は果たして日本企業にも有効なのか。外資系コンサルティング・ファームに勤める著者は、本業を重視する日本企業ならではの戦略があるはずだと説く。それは事業から学ぶ仕組みを作ること。トヨタ、ユニクロ、セブンイレブンなど豊富な事例と共に、学習型戦略論を提起する。
46判上製、344頁、定価(本体2000円+税)

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目次

はじめに

序章 今、なぜ成長か
「二兎追い」戦略の限界?/非デジタル思考による限界突破/なぜユニクロが強いのか/トヨタは蘇るか/答えは自らが握っている/足腰を鍛え、跳躍せよ/本書の構成

第1章 スマート・リーンが拓く次世代成長
ポーターモデルの限界/イノベーションのジレンマ/スマート・リーンによる限界突破/任天堂の成功パターン/セブン-イレブンの業態革命/トヨタの原点/ノキアのインド攻略/独走するiPod/アップル復活の真相/日本企業復権の切り札

第2章 資産構造を組み替える
日本企業の三重苦/非日常(ハレ)から日常(ケ)へ/分解から再編集へ/非デジタルな資産の組み替え/資産の三層構造/三つの顔を持つ任天堂/ユニクロのバーチャルカンパニー/答えは足元にある

第3章 スマート・リーン経営のダイナミズム
「鏡の国」の競争原理/「新化」と「深化」/進化の二重構造/「深化」するコンビニ/隣へのずらしによる「伸化」/リクルートの拡業パターン/進化のメビウス/ユニクロの飽くなき挑戦

第4章 成長を駆動する組織要件
組織運動のトポロジー/四つの「見えざる資産」/DNAの二つの螺旋構造/DNAの読み解きと読み替え/DNAを基軸とした「マーケット・アウト」/成長エンジン/〈4+1〉ボックスがもたらす持続成長/ユニクロの〈4+1〉ボックス/四つの未成功パターン/「見えざる資産」を「見える化」する

第5章 組織のメビウス運動
逆上がりするメビウス/「見えざる資産」のつなぎ方/アップルの「つなぎ」/リクルートの「ずらし」/学習と脱学習の良循環/学習優位の確立/どこから手をつけるか/原体験としてのメビウス

第6章 組織の慣性を突破する
空間軸上のねじれ/ミドル機能による「つなぎ」/ユニクロを駆動するミドル機能/ミドル機能の埋め込み
時間軸上のねじれ/リクルートの「ずらし」の仕掛け/異質性の取り込み/「新化」と「伸化」を仕掛ける
ミドル機能を呼び覚ます

第7章 企業進化の実践
経営変革のグローバル・スタンダード/日本型変革モデル/パナソニックの破壊と創造/V商品と垂直立ち上げ/デジカメにみるメビウス運動/スマート・リーン×メビウス/自己組織化の方程式/「正の危機感」による「ゆらぎ」の創発/「つなぎ」をもたらす「本質的な質問」/実践を通じた体質化

第8章 日本企業復活に向けて
アジア域内スマート・リーン構想/「こちら側」と「あちら側」をつなぐ/目指せ 「融知経営」/グローバル経営の三段階/フラクタルな進化/イノベーションの経営から経営のイノベーションへ/明日から何をすべきか

おわりに