ノキアのインド攻略

 ここまで、日本企業の成功例をみてきました。しかし、海外でもスマート・リーン・モデルで成功している企業はあります。

 たとえばノキアです。同社は携帯電話端末のグローバル・リーダーとして、これまでは欧米市場を中心に、高機能商品を得意としてきました。しかし、インドに本格進出するにあたって、40ドルを切る超低価格の端末で新しい勝負をかけてきたのです。モトローラやサムスンなどの競合が従来どおりの高機能商品を展開してハイエンド市場に高止まりし、台湾や現地のメーカーが「安かろう、悪かろう」のローエンド市場にとどまっていたのに対して、ノキアは中間的なボリューム・ゾーンを大きく立ち上げることに成功しました。

 40ドル端末を開発するにあたって、ノキアは、インドの一般のユーザーにとって不要な機能を徹底的に削ぎ落としました。カメラ機能やインターネットブラウジング機能はもちろんのこと、カラーモニターもスピーカーもありません。一方で、現地ならではの利用環境に対応して、汚れ防止や高い耐久性を実現し、現地言語でのメール機能なども付加しています。

 しかし、なんといっても圧巻は、電灯機能です。なぜ、機能を絞り込んだはずのノキアの携帯に電灯がついているか、おわかりでしょうか。ヒントは、インドでは停電が日常茶飯事だということ。そう、懐中電灯の役割も果たす携帯電話は、まさに、ライフライン(生命線)的なイノベーションだったのです。

 いたずらにハイテクの機能競争に走るのではなく、できるだけ機能を簡素化(リーン)する。一方で、消費者が本当に必要としている機能(スマート)は、たとえどんなにローテクであろうと盛り込んでいく。ノキアは、そのようなスマート・リーン戦略を徹底することによって、インドでの大成功を果たしたのです。

 同様に、GEのヘルスケア部門は中国にローカル・グロース・チーム(LGT)を設立しました。このチームはGEのグローバル資源を利用して、中国市場向けに超低価格のポータブル型超音波診断装置を開発。中国での売上げが急増しただけではなく、可搬性が欠かせない状況(たとえば、事故現場)や狭い場所に利用する(たとえば、針やカテーテルの挿入)という新しい利用価値が見つかったことで、先進国でも爆発的な成長を遂げたのです。GEのジェフリー・イメルトCEOは、このように新興国で開発したものを先進国に展開する戦略を「リバース・イノベーション」と呼んでいます(1)。

 インドや中国に代表される新興市場のボリューム・ゾーンを掘り当てることが、次の成長を目指すうえで、日本企業にとって大きな経営課題となっています。このノキアやGEの事例のように、これまでの成功体験にとらわれず、自社ならではのスマート・リーン戦略をいかに組み立てていくかが問われているといえます。