セブン-イレブンの業態革命

 サービス業界に目を転じても、業界のリーダーがスマート・リーンの王道からぶれずに、業態進化をリードしているケースは少なくありません。コンビニにおけるセブン‐イレブン、宅配におけるヤマト運輸、警備保障におけるセコムなどがすぐ思い浮かびます。ここでは、セブン?イレブンのケースをみてみましょう(図4)。

 日用品の小売の世界では、戦後、中小小売店(ママパパショップ)に対して、総合スーパー(GMS)が品数とコスト競争力を武器に、スマート・リーンな業態として急成長しました。まだそのGMS全盛期に、イトーヨーカ堂の鈴木敏夫氏(現、セブン&アイ・ホールディングス会長)は、アメリカでフランチャイズ方式で小規模店舗を広く展開していたセブン‐イレブンに注目します。「近くて便利」というママパパショップが持っていた価値が、クルマ社会のアメリカ以上に日本の顧客に受け入れられると確信したのです。

 ただし、当時のアメリカのセブン‐イレブン・モデルには、GMSに比べて2つの致命的な欠点がありました。1つは品揃え。顧客が求める幅広い日用品を、小さな店舗に詰め込むのは物理的に無理がありました。もう1つは物流コスト。小ロットで多品種な商品を、網の目状に広がる各店舗に、頻繁に配送しようとすると、GMSのような規模の経済は望むべくもありません。

 そこで鈴木氏は、日本にセブン‐イレブンを導入するにあたって、これら2つの欠点を乗り越える工夫を加えました。品揃えに関しては、「売れ筋」「死に筋」を徹底的に選り分けることによって品切れを防ぎ、顧客が求める商品が確実に揃う品揃えにしました。物流コストに関しては、小口配送や混載配送などの新しい仕組みを編み出すことによって、分散していることの不利益をできるだけ補うような仕組みをつくりました。このように価値軸・コスト軸双方に工夫を凝らすことによって、鈴木氏率いるセブン?イレブン・ジャパンは、大型店のような品揃えをパパママショップのような規模で提供するという新しいスマート・リーン業態を確立したのです。

 コンビニ業界のリーダーの座を不動のものとしてからも、セブン‐イレブンは進化のスピードを緩めません。店舗の利便性と低コストを活用して、決済や宅配受付のような異業種サービスにまで業容を拡大していきます。また、「いいものを安く」を徹底するために、製造・小売一体型のプライベート・ブランド展開にも余念がありません。

 既存事業で成功している企業ほど、その強みと弱みを知り抜いています。イトーヨーカ堂の場合では、規模の経済という強みと利便性という弱みです。であれば、過去の成功にとらわれなければ、価値とコストの両面で、これまでの強みを磨き弱みを克服するモデルを、誰よりも深く考え抜けるはずです。事業のキモを熟知している既存事業のプレーヤーだからこそ、スマート・リーン戦略を基軸に攻め続けることによって、業態の変革と進化を駆動することができるのです。

(つづく)

【注】
(1)マイケル・E・ポーター著、土岐坤、中辻萬治、服部照夫訳『競争の戦略』 (ダイヤモンド社、1982年)
(2)クレイトン・クリステンセン著、玉田俊平太監修、伊豆原弓訳『イノベーションのジレンマ』(翔泳社、2001年)
(3) 第1章と第2章の戦略論の一部は、日本経済新聞(2008年10月28日?10月31日)「競争戦略①~④」にも掲載
(4)ジェフリー・イメルト他著・関美和訳「GEリバース・イノベーション戦略」( 『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2010年1月)

 

 

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