任天堂の成功パターン

 家庭用ゲームの世界では、ソニー、マイクロソフト、任天堂の3社が、熾烈な競争を演じています。しかしながら、ハイテクの雄ともいうべきソニーやマイクロソフトの追随を振り切って、任天堂は新たな市場を開拓し続けてきました。これら3社の戦いを、スマート・リーンの軸の上で比較してみましょう(図3)。

 ソニーは、飛躍的な画像処理能力を誇る半導体「セル」を搭載したプレイステーションで、高機能化路線を目指しました。しかし、内製にこだわったセルの固定費が重くのしかかり、利益を長らく圧迫する結果を招きました。これは価値軸偏重モデルの限界です。

 一方、マイクロソフトのXボックスは、台湾の鴻海精密工業に生産委託することによって、コスト構造を徹底的に圧縮しています。しかし、ゲーム機として顧客にとっての新しい体験価値を訴求しきれず、売上げそのものがなかなか跳ね上がってきません。こちらは、コスト軸偏重モデルの限界です。

 これら2社の戦略に対して、任天堂は、DSやWiiを仕掛ける際に、明確に立ち位置をずらしています。高機能を追いかけることはせず、高い固定費を自ら抱えることもなく、コスト構造はあくまでリーンを徹底しています。一方で、幅広い顧客に対して新しいゲーム体験を提供するために、ユーザーインターフェースに工夫を凝らし、パートナー企業との協業を通じてペン入力タイプのタッチパネルや三軸加速センサーなどの最新技術を取り込んでいます。その結果、売上げ、利益のいずれも他の2社をはるかに凌駕する業績を上げています。

 言うまでもなく任天堂は、もともと花札を販売する玩具メーカーです。その頃からホームエンターテインメントの老舗であり、ファミコン、スーパーファミコンと、家庭用ゲーム市場の開拓者であり続けたのです。この世界では、ソニーやマイクロソフトのほうが圧倒的に新参者となります。そんな新参者たちの揺さぶりはものともせず、任天堂は価値とコストの二兎を追うというスマート・リーン戦略を貫き通すことによって、次々に新市場を創出することに成功したのです。

 またここでは、技術先行型のイノベーションが、スマート・リーン型の真のイノベーションには結びつきにくい点も見落としてはなりません。ソニーは家電ハードウェアの雄であり、マイクロソフトはITソフトウェアの巨人です。しかし、ハードやソフトといった技術軸でいかに価値やコストの勝負をかけたところで、顧客の本質的な体験価値を見据え、技術面では外部の知恵と資産を柔軟に取り入れる任天堂の優位を崩すのは簡単ではなかったのです。

 任天堂で「ファミリーコンピュータ」を開発した横井軍平氏は、「枯れた技術の水平思考」という哲学を唱えました。すでに十分こなれた技術を使うことによって、開発コストを抑え、顧客に受け入れられやすい手頃な価格も実現できる。〈イノベーション=技術革新〉と狭義に捉えられがちですが、皮肉なことに、高度技術に走りがちなハイテク企業ほど、同質的な競争や「イノベーションのジレンマ」から抜け出せないのが実態です。