このケースから、ユニクロは、まったくの飛び地での成功の確率は極めて低いことを実感し、その後は、本業周りの成長機会に集中するようになりました。「1勝9敗」を地でいく、ユニクロならではの学習プロセスです。

 このように、Shrink & Grow型の変革を行うためには、経営トップの強いリーダーシップが不可欠です。これまで収益の柱となってきた本業から、投資先行型の拡業へ経営資源をシフトする意思決定は、それぞれの事業責任を担う現場の利益代表ではなく、全体のポートフォリオを中長期的な時間軸で俯瞰できる経営トップにしかできません。なぜなら、本業では確実に収益を上げる構造を維持しつつ、拡業では失敗を許容しながら、新しい収益方程式を手探りで磨き上げていくという、極めて広角な経営手腕が求められるからです。

 しかし、経営トップがそのような意思と度量を持ってしっかりリードすれば、現場が本来の活力を取り戻し、試行錯誤の中から次の成長基盤をしっかり築いていってくれるはずです。世界経済全体が踊り場を迎えた今こそ、日本企業の復権に向けて、経営トップ自身が、自社ならではの成長の可能性と現場の底力を信じて、大きく舵を切りなおす時期にきています。

本書『学習する経営』の構成

 本書では、次世代成長に向けた日本発グローバルな経営モデルを提唱します。最初に、その前提として、価値(スマート)とコスト(リーン)の両立を目指す「スマート・リーン」型事業モデルの重要性を再確認します。そのうえで、持続的な成長を駆動していくための組織モデルとして、自社のDNAを基軸として、学習と脱学習の良循環をもたらす「メビウス」モデルを提唱します。ここが、本書の中核です。そして最後に、日本企業にとっての解の方向性を、試論として提示します。

 20年近い経営コンサルティングの経験で、多くの失敗と成功を目の当たりにしてきました。日本企業が大きな岐路に立った今、仮説・実践・検証を繰り返すことによって学習優位を築く日本型の「メビウス・モデル」こそ、日本企業復権に向けた有力な答えになりうるものと、筆者は確信しています。

 構造的なデフレの中でも、さらにはこのトンネルから抜け出た後も、1社でも多くの企業が、次世代の成長に大きく踏み出していくうえで、本書が少しでもお役に立つことを願う次第です。

(つづく)

【注】
(1)日本経済新聞(2009年10月3日)
(2)「週刊東洋経済」(2008年10月11日)
(3)柳井正著『成功は1日で捨て去れ』(新潮社、2009年)

 

 

【書籍のご案内】

学習優位の経営――日本企業はなぜ内部から変われるのか

市場でのポジショニングを重視する欧米型の戦略論は果たして日本企業にも有効なのか。外資系コンサルティング・ファームに勤める著者は、本業を重視する日本企業ならではの戦略があるはずだと説く。それは事業から学ぶ仕組みを作ること。トヨタ、ユニクロ、セブンイレブンなど豊富な事例と共に、学習型戦略論を提起する。
46判上製、344頁、定価(本体2000円+税)

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