なぜユニクロが強いのか

 SPAと呼ばれる自社ブランドを持つ専門小売店型の業態は、アパレル業界にすっかり定着してきました。製造から小売までサプライチェーンを一貫してコントロールすることによって、中間取引コストなどの無駄を徹底的に排除する事業モデルです。その元祖ともいうべきギャップは、今やアパレル業界のリーダーの座に君臨しています。

 ギャップに代表される第一世代がコスト競争に主眼をおいたのに対して、ZARAやH&Mなどの第二世代の企業は、高いファッション性を持ち込むことによって、「ファストファッション」という新しい価値観を確立しました。単純なコスト競争から価値競争へとゲームのルールをシフトさせ、新しい市場の創造に成功したのです。

 第二世代の企業が、流行のファッション性をいち早く反映することに照準を当てているのに対して、ユニクロは、あくまでベーシックかつ品質の高いカジュアル性に基軸をおいています。その結果、「身の丈に合った良品を身の丈に合った価格で買いたい」という幅広い消費者の根源的な需要を掘り起こすことに成功しました。かつてはユニクロを着ていることがばれること(「ユニばれ」)を嫌っていた消費者も、今ではユニクロが体現する「賢い生活スタイル」を、新しい価値観として好んで自己表現するようにすらなっています。コストと価値の両立にこだわることで、これまで看過されてきた大きな市場を掘り当てたのです。

 ファーストリテイリング(ユニクロ)の柳井正CEOは、著書で次のように語っています。

「商品そのものがいいということ、その商品の持つ情報が自分にとって有益だと思えること、そこに、広告などで伝わる商品のイメージが加わる。そして、そこにいたる大前提として、まずユニクロという企業の『生き方』を理解してもらい、ユニクロだから買いに行こうと思ってもらう。我々のように、いろんな意味の情報を商品と同時に伝えるSPAを、第三世代SPAと名付けた」(1)

 ユニクロは、モノづくりにも、コストと価値の好循環を持ち込むことに成功しました。ユニクロは中国の製造業者を欧米企業のように下請け扱いはせず、あくまで事業のパートナーとして位置づけます。そして70社に絞り込んだパートナーの工場に、「匠」と呼ばれる生産技術者を送り込み、パートナーと一体となって品質向上とコスト削減に取り組みました。たとえば、大ヒットした「ヒートテック」の場合、3年もかけて特殊な糸の染め方や織り方の研究を現場で積み重ねたといいます。

 このようなユニクロの勝ちパターンは、初めからできあがっていたわけではありません。柳井CEO自身が『1勝9敗』(2)という自著で語っているように、むしろ失敗を重ねる中から、磨かれてきたものです。

 たとえば「フリース」大ヒットの後、デザイナーの思い込みでつくった商品が顧客に受け入れられないという状況が続きました。そこで柳井CEOは、デザイナーに頻繁に自社の店舗に足を運ばせ、顧客の行動を観察するように徹底させたのです。そのような地道な努力の中から、「スキニー(美脚)ジーンズ」をはじめとするヒット商品群が生まれました。また、柳井CEOのもとには毎日全店に寄せられたクレームが上がってきます。それを本社と店頭が一体となって正面からつぶす作業を繰り返し、品質カイゼンと商品開発に反映しています。

「やっていることは、どの会社もほとんど一緒。でも、我々はそれを本当に真剣に徹底してやっている」(3)と柳井CEOは語っています。事業モデル革新とか顧客指向のマーケティングなどと仰々しい経営手法を振りかざすのではなく、強靭な足腰と現場の知恵を武器に進化を続けていく――その実践重視の経営スタイルには、かつて強かった頃の日本企業のDNAが、力強く脈打っています。

(つづく)

【注】
(1)柳井正著『成功は1日で捨て去れ』(新潮社、2009年)
(2)柳井正著『1勝9敗』(新潮社、2003年)
(3)「日経ビジネス」(2009年6月1日)

 

 

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