非デジタル思考による限界突破

 しかし一方で、コスト軸か価値軸のどちらかで、欧米の先進企業やアジアの新興勢力と同質の競争に挑んでも、もはや周回遅れの日本企業にはなかなか勝ち目がなさそうです。そもそも、コスト競争に走るとコモディティ化を加速させ、業界全体が疲弊してしまいます。また、価値軸のみを追求するといずれ廉価な模倣バージョンが登場し、悪貨が良貨を駆逐するように、ニッチなハイエンド市場に追いやられてしまいます。コストか価値かというデジタルな選択では、持続的な優位性を築くことは困難なのです。

 市場が成熟するにつれ、コスト競争も価値競争も同質化していきます。このような閉塞感を突破するために、かつて日本企業が仕掛けたように、もう1度、コストと価値を両立させる方向へ競争の次元をシフトする手はないでしょうか。

 流通の「中抜き」のようなリーンな事業モデルに移行すれば、当然固定費は軽くなります。しかし、それが競争の一般的なルールになってしまえば、コスト構造は同質化し差別化とはなりません。パソコン販売に価格破壊をもたらしたデルも、すぐに他社の追随を許してしまいました。持続的な優位性を築くためには、外部化した資産に磨きをかけ、それらを有機的に束ねなおして、他社とは異なる訴求価値を追求していくことこそ、本当の勝負どころとなるのです。

 一方、新しい体験価値の訴求にこだわると、高コスト体質になりがちです。一世を風靡したスターバックスも、デフレ時代の中で成長の踊り場を迎えています。「値頃感」も体験価値を構成する重要な要素である以上、価値競争を追求するうえでも、バリューチェーン全体でいかにコストを下げられるかが知恵の絞りどころとなります。 たとえば、アパレル業界で1人勝ちの感のあるユニクロ(ファーストリテイリング)。デフレ時代の申し子のように思われがちですが、低コスト構造だけが強みではありません。「安さ」を売りにするアパレルメーカーが多数ある中で、ユニクロの優位性が持続しているのは、むしろ顧客の視点に立ったシンプルなデザインという価値であり、それを顧客の値頃感を満たす価格で提供するという「二兎追い」戦略を実現しているからです。これがユニクロの本質的な強みでしょう。