一方、価値軸においては、顧客の体験価値をいかに高めるかが競争の主戦場となっていきます。スターバックスやイケアなどは、単にコーヒーや家具の提供にとどまらず、新しい生活シーンや生活スタイルを提供することで、またたく間に世界を席巻しました。ハイテク業界においても、アップルがiPodで、エンターテインメントの世界にまったく新しい体験価値をもたらしたことは記憶に新しいでしょう。韓国のサムスンやLGも、携帯端末やフラットTVに高いデザイン性を持ち込むことによって、おしゃれでクールな価値観を訴求することに成功しています。ここでも、日本企業が品質や機能など、モノやサービスそのものの価値の向上に躍起になっている間に、海外の先進プレーヤーは体験価値という顧客目線での価値訴求によって、競争の主戦場を大きくシフトしてしまったのです。

 コストで太刀打ちできないとなれば、価値軸で勝負するしかない。しかし、過剰なまでの高機能化やサービス競争に明け暮れてきた日本企業の多くは、高コスト構造を抱え込んだまま、世界規模で最もボリュームが見込めるゾーンの価格帯から大きくずり上がってしまっています。HDTVやカーナビなどのハイテク系の製品やサービスは、その代表例です。

 また日本企業は、国内の顧客の高い目線に合わせすぎるという問題もあります。俗に、日本の消費者は世界一要求の高い消費者、といわれます。目の肥えた消費者を相手にするには、きめの細かい商品スペックが要求されます。こうして生まれた商品をそのまま海外に持っていっても、世界の標準的な消費者にとっては、過剰なサービスとなってしまうのです。たとえば、新しいモバイル体験価値を訴求して日本では大成功したiモード型のケータイサービスが、その過剰な機能と高コスト構造のために日本の外には広がらず、「ガラパゴス」現象と揶揄される事態を招いています。

 このように、コストと価値の両立を目指して成功してきた日本企業は、それぞれの軸でこれまでとは次元の違う戦いを強いられて苦しんでいます。事業モデルの革新であれ、体験価値の創造であれ、これまでの勝ちパターンを引きずったままでは、どちらも世界に通用するレベルに届きそうもありません。ましてやその両立を目指そうとすると、身動きすらとれません。

 戦略論の第一人者、ハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーターは、コストと価値の両立を狙う戦略は、「中途半端な立ち位置(stuck-in-the-middle)」と言い切っています。二兎を追おうとした日本企業は、ポーターの主張どおり、まさに立ち往生してしまった感があるのです。