2.新しいマーケティング
 強引な売り込みも、終焉を迎えようとしている。ネット時代の企業戦略95カ条を示した「クルートレイン・マニフェスト」(邦訳『これまでのビジネスのやり方は終わりだ』日本経済新聞社、2001年)は、「市場とは対話である」と指摘した。これは鳴り物入りのマーケティングや、独自の販売計画の臆面もない押し付けに終わりを告げるものだ。たとえば掃除用品〈スウィッファー〉のCMからは、P&Gの努力は伝わってくるが、結婚式で親戚の笑えないジョークを聞いているかのように感じられる場合が多い。苦心の跡が見られるが、タイミングが悪く、比喩も不適切で、とにかく目も当てられない。ブランディングが職人芸になってしまっているとすれば、マーケティングもそうだ。

 生活者は賢くなり、メディアも新しくなったのだから、強引な売り込みではなく、ささやきかけるようなものが望ましい(オレオが消費者からアイデアを募集したデイリー・ツイスト・キャンペーンのように)。買ってもらえるまで叫び続けるのではなく、消費者を招き入れるほうがよい。誰もが知っているように、P&Gなら何だってやれる(もっとも、このことは問題でもあるのだが)。

3.新しい消費者
 消費者における従来型の嗜好や選好も、終焉を迎えようとしている。たとえば、ファーマーズ・マーケット(農産物の直売所)の存在は、P&Gにとって脅威となる。というのも、P&Gの製品やマーケティングの最も根本的な前提を否定するものだからだ。その前提とは、消費者はP&Gの製品が完璧な状態で、まるで魔法のように、地元のスーパーやドラッグストアの店頭に並んでいるのを望んでいる、とするものだ。しかし時代は変わった。いまや消費者は、実際に生産者に会い、出来損ないの商品や、泥がこびりついたままの商品を見たがっている。農家の人に直接話しかけたいのだ。それが無理でも、せめて自分の洋服をつくった人、コーヒー豆を栽培している人の写真を見たがる。大量生産の時代は終わったのだ。そのことが、P&Gの命題を危うくしている。

4.新しい住まい
 郊外の住宅も、終焉を迎えようとしている。かつてそこは、伝統的な一大事業の場だった。母親は、自分たち家族が隣人に後れを取らず、戦後の繁栄という上昇気流に乗っていること、つまりは「勝ち組」であるということを懸命に示そうとした。家、食事、子どもたち、夫、芝生、リビングルームは、ほぼ完璧な状態に保たれ、母親たちはステータスの評価を受ける準備を整えた。そしてその階級に留まり続けるために、P&Gブランドにも財産のわずかな一部を定期的に注ぎ込んできた。

 だが、上昇志向もかつてとは様変わりしている。住まいはいまや新しい目的を持ち、母親たちは新しい責任を担う。この変化の特徴を表すものの1つは、アメリカの多くの住宅に見られるようになった「ファミリールーム」だ。リビングルーム、ダイニングルーム、キッチンを隔てる壁は取り壊された。子育てや娯楽、食事の準備、家族生活にも新しい様式が生まれた。P&Gは信じられない様子でこれを見ている。アメリカの家族生活の基盤が、これほど大きく、しかも急激に変化するなどと、誰が予測しただろう? しかし、何百万人もの母親たちは、何が起きているのかを正確に知っていた。彼女たちにとって、この変化は「ブラック・スワン」ではなかったのだ。