また、長期的には医薬、飲料、加工食品分野の事業を、将来の経営を支える柱に育てなければいけません。それ以外に事業を広げる予定はいまのところありません。金屏風は広げれば広げるほど倒れやすくなるのと同じです。私は「選択と集中」と「ポートフォリオ」が大事だと、あらゆる場面で社員に伝えています。

 たとえば、地理的な点で考えると、ヨーロッパのように成熟したマーケットと、アフリカのようなこれからの新興マーケット。この2つを組み合わせることで、安定的かつ成長できるモデルをつくれます。これがマーケットポートフォリオです。それとともに、どの部分を選択し、資源を集中させるかも大切です。「選択と集中」と「ポートフォリオ」のバランスを考えて事業を組み立てたいと思います。

 あとは個人的な問題、自分の経営能力とマネジメントスタイルの問題もあります。私はハンズオンでマネジメントするタイプなので、自分が分からないと思う事業は心地よくありません。私の限界でもあるかもしれません。いずれにしても事業領域をいまのところこれ以上広げるつもりはありません。

――たばこ事業は変化をつけにくいと感じます。味を変えられると嫌がる消費者も多いでしょう。同じものをつくり続け、継続が重んじられるなかで、変化を起こすことは難しくないですか。

 これはたばこ事業以外にも言えることではないでしょうか。既存の強い財・サービスを持っている企業は、どこも同じことを考えると思います。ただ、それは思い込みの可能性もあると思います。先ほどたばこは50年間、景気に左右されないという説が信じ続けられてきましたと言いましたが、それと同じことかもしれません。定説はあくまで定説であって、何かの条件が変われば、すぐに崩れます。変化への努力を怠ってしまえば、進歩はありません。

 実はお客様のうち年間20~30%の人がブランドを変えているのです。味探しの旅に出ているお客様が常にいらっしゃいます。そこに対して答えを出したいという気持ちを持たなくなったら、メーカー人をやっている意味がありません。難しいか難しくないかではなく、やるかやらないかだと思うのです。 

――どのような状況下でも、変化の努力を怠らないことが求められるのですね。

 教科書を書き換えるつもりで、事にあたれと社員には常に言っています。学生時代は教科書から学ぶスタイルでいいが、社会に出ると教科書を書き換えるつもりでいなければならない。メビウスもマーケティングの教科書を書き換えるつもりでやれといいました。

 今回のメビウスへのブランド名変更は、結果論に過ぎませんが、なんとか順調にスタートできました。これが売り上げを3分の2、半分にしてしまう結果でしたら、いま頃私は袋叩きです(笑)。何もしないと、誰からも何も言われませんから、心地が良いことは確かです。しかし、不作為の罪は将来振り返ってみたときに、厳しい評価を下されるでしょう。いまの心地よい世界に安住してはいけません。後世の評価に耐えうるような決断や事業の中身を考えなくてはいけないと常々思っています。

 不安感を危機感に転換できたら、それがエネルギーに変わり、組織が成長できる。我々はここ数年それを繰り返してきました。これからも、変化をポジティブに、能動的につくり続けたいと思います。

 

【連載バックナンバー】
日本たばこ産業社長・小泉光臣氏に聞く
「漠然とした不安感と健全な危機感(前編)」