マーケティングの視点ではなく組織を一段の高みに持っていく一環としても、今回のブランド変更は大きな役割を果たしています。国内マーケットで働く社員に向けては、漠然とした不安感を抱えた状態から健全な危機感に変わることで、前へ前へ向かっていくタイミングであろうという判断もありました。

 マイルドセブンは何もしなくても5年、10年は何とか稼げるブランド力があります。ただ一方で、社員のなかには、「このブランドがいつまで大丈夫なのかな」「マイルドセブンがダメになると、いつかJTもダメになってしまうのかな」という漠然とした不安感が芽生え始めていたのです。

 不安感を抱えたまま組織が走るのではなく、世界戦略の一環として国内も変えるぞ。このメビウスで自分たちは再チャレンジし、もう一段高みに行くんだという、新しい目標を設定したのです。メビウスをグローバルブランドにし、マイルドセブン以上のブランドに育て、シェアを拡大するという新たな目的を持って進むことを決断しました。これは正しい選択だったと思います。

――しかし、これだけ大きな転換を実行することに不安はありませんでしたか。

 言うは易し、行うは難しです。理屈では正しいと思っても、変われる組織能力を持っているかというのが、戦略を決断する上で、最大のメルクマールになりました。戦略が正しいかどうかと、その戦略を実行できるか否かは全く別問題です。戦略が正しくて、その通りに実行できるのであれば、経営者というのはこんな楽な仕事はありません。おそらく戦略の方向性はあっている、けれども遂行できる能力があるか否かが悩ましいのです。

 ブランド変更を社内で発表する前に、日本全国を回って社員と話をし、皆が持っているマイルドセブンへの思いや不安を聞きました。あえて自ら起こす変化に対して、社員が「やってやろう!」と思うか、「社長、何をふざけたことを言っているのですか」と思うかは、机の上ではわかりません。ひたすら現場を回り感触を探りました。そして私は、Executionに手応えを感じたのです。ですので答えはGoでした。

――能動的に変化をつくることと、無謀な変化をつくることとの境目は、何でしょうか。

 無謀なことか、能動的な変化かを判断する際のポイントは、変われるだけの組織能力を持っているか、持っていないか。その点検をきちんと行っているかどうかということに尽きると思います。組織能力の点検を怠った上での取り組みは、単なる暴挙です。従って、日常における組織能力向上の取り組みが極めて重要になってくると考えています。

――今後一層、事業の多角化を進めるのでしょうか。もしくはタバコ事業をよりグローバルに展開していくのでしょうか。

 グローバル市場には、まだJTのシェアが低いエリア、進出していないエリアもあります。中期的には、地理的フロンティアの拡大はまだ目指します。加えて、製品の種類を増やすことも考えています。たばこには葉巻やチューイング、水パイプなど、様々な種類があります。まだ世の中にないたばこを開発してもいいのではないでしょうか。たばこの歴史は500年ありますが、日本で一般的なシガレットという形態の歴史は100年程度です。過去に変化があったのに、将来変化が起きないはずがありません。そのような領域にもまだまだフロンティアはあると思うのです。