――買収により皆が危機感を持ったことで、組織が一気に変わりましたか。

 変わりましたね。不安感だった時は、社員は自分はどうしていいかわからない。しかし、RJRIを買収し、これからグローバルでやっていく、活躍する場は世界だと示すと、自分の能力をそれに見合うレベルまで高めていかなければならないと考え始めます。変化の過程では、単に不安で目標が持てません。危機感に変わると、もしかするとだめかもしれないが、目標にむかってやらなくてはいけないという意識を皆が持ち始めます。99年以来のDNAとして、いまでもこの健全な危機感は社内にあります。

――企業のマインドが一気に変わり、活躍する場が増えると、若手社員はチャンスだと思いますね。

 若手はもちろんそう思ったと思います。ただ中高年の社員が、自分たちには関係ないと思ったわけではありません。「若い奴らは活躍する場が広がるけど、俺たちは関係ない」という声は聞こえてきませんでした。グローバルで活躍するには英会話などが大事だと思うかもしれません。でも、そもそもうちはたばこメーカーです。世界のどこに出ても―タンザニアだろうが、カナダ、イギリス、ロシアだろうが、我々が行うのはたばこ事業なのです。

 先輩たちはたばこをつくるノウハウ、売るノウハウをしっかり持っています。これを若手に伝授して、そのノウハウを持って若手が世界に羽ばたいていけという雰囲気が社内にありましたね。傍観者がいない状態でした。

――海外たばこ事業を担う現在のJTインターナショナル(以下、JTI)などができ、会社が多様化したことで、どのような変化がもたらされましたか。

 国内外両社が相互に大きく影響を受けながら、アウフヘーベン(止揚)したと思います。キャリアパスも、国籍も違う、専門性も違う。あうんの呼吸や、わかるだろうという気持ちでは一切が済まないし、相手が納得しません。多様性を抱えながら組織が成長するために、経済合理性という物差しが、一層求められるようになりました。また、説明責任をあらゆる場面で求められます。そのような文化はJTI側に一日の長があったので、大変刺激を受けました。

 反対に刺激を与えた点もあります。たとえば、品質第一主義はJTI側に良い影響を与えたと思います。日本市場でのビジネスは品質に対するこだわりが強いお客様を相手にしなければなりません。ここで鍛えられた品質へのこだわりは、JTIによい影響を与えました。

――説明責任を果たすことは面倒です。スピードが求められる現代に、合わないと思われませんか。

 確かに面倒で、時間のかかることもありますが、説明し、議論し、納得したうえで意思決定を行うため、施策の質は格段に上がります。高度成長期のように産業界全体が向かう方向が自明の理である場合、たとえばGDP、購買能力、消費意欲はどんどん高まり、多くを語らなくても今後の方向性が見えるような状況の場合は、いちいち説明責任を果たしていくよりもあうんの呼吸を大事にすることで、当時は効率的な組織運営に繋がったと思います。

 しかし、いまは全く状況が異なります。市場環境は複雑で、同じ業界のなかでも企業によって戦略に違いがあります。向かう方向、正しい選択が1つではなくなってきているのです。そのため、戦略を決める際に議論を重ね、説得材料を示さなければ社内をまとめることはできません。説明責任を果たすことは、いまの時代だからこそどのような企業にも求められていると思います。仕事のやり方が99年の買収によって変わったことは、結果的にいまの市場環境ではプラスに働いていると思います。

(続く)

次回は長年愛されたブランドであるマイルドセブンの名前を、なぜ変更するに至ったのか。その戦略について詳しく伺います。
公開は11月13日(水)の予定です。