この事例のどこに注目すべきかといえば、それはディーライトデザインのミッションや製品そのものに高い社会性があったことです。ちなみにソーラーランタン普及によって増大する社会的便益とは、照明やエネルギーへのアクセス欠如解消がまず第1義的にあり、それによって労働生産性の向上と収入増大、教育機会の増大、ケロシンの煙による健康被害の解消、火事による損害の減少などです。この社会性によって同社は関連する領域ですでに人脈や信頼を獲得している有力NGOの力を借りることができた。つまりそもそも社会性を追求していたことが同社のアドバンテージとなり、経済性との間に相乗効果が発揮されたといえます。

 社会性と経済性の両立を戦略論に取り入れることで、これまで営利の世界で閉じていた戦略論のフロンティアを拡張できる可能性があります。これまで社会性の追求はフリードマンをはじめとするリバタリアニズムの主張からは単にコストとみなされてきました。企業による社会性追求投資が本業の利益とどう相関があるかの実証研究はおびただしく存在しますが、そこでの社会性投資は本業とは無関係の慈善活動や寄付が対象で、参考になりません。「本業が帯びる社会性が呼び込む外部経営資源とのリンケージ(シナジー)」が、本業の経済的業績をどれほど上げ得るかは、今後戦略論の重要な領域になる可能性があります。

戦略論に社会性を取り入れる考え方に、いつごろから注目されておられましたか。

 マイケル・ポーターが「Creating Shared Value」(注1)を書く以前、C・KプラハラッドがBOP(ボトム・オブ・ピラミッド)の社会性とのかかわりについて『The Fortune at the Bottom of the Pyramid: Eradicating Poverty Through Profit』(注2)を書いています。既存の戦略論は先進国企業が先進国市場で成功するためのものでした。けれどもプラハラッドはそこに例外を作らず、先進国企業が地球のあらゆる市場を視野に活動していかに成功するかを説いたのです。

 これを読んだ際に私が感じたのは、これまでの持続的競争優位(企業の経済的価値の最大化)をゴールとする伝統的戦略論が、開発途上国の農村部市場でどれだけ通用するのか。既存の理論が修正を迫られるならそれは何なのだろうか、という問題意識でした。

 戦略と社会性の関わりについては、ポーターとクレーマーによる「Strategy & Society」(2006)や「Creating Shared Value」(2011)があります。ポーターはそれまでにも戦略的フィランソロピーや非営利財団の戦略について論文を書いていますが、企業の本業に関わる社会性に真正面から取り組んだのはこれらの著作でしょう。これら一連の著作を読んで、私は「社会的価値が伝統的戦略論の中でどのような役割を果たすのか」という点が理論構築の上で重要だと感じました。