しかし現実には、どの企業でも、競争上のポジションは常に蝕まれている。現状維持とは、つまり下降することなのだ。イノベーションの権威であるクレイトン・クリステンセンによれば、私たちは「事業における現状は、将来もそのまま変わらないという前提」をベースに物事を考えているという。「イノベーションによって生じるプラス面を現在の状態と比べているが、現状というものは(中略)パフォーマンスが衰退していく軌道の上にあり、時間が経つに連れてそのスピードは加速していく」

 クリステンセンが警告するように、これは戦略における危険な誤解である。異なる未来を想定して備えることのリスクと見返りを、見誤ってしまうからだ。しかし、私たちは考えなくてはならない――5年後、15年後、30年後に顧客はどうなっているのか。新たなニーズをめぐり、競争はどう発展していくのか。日用品やエネルギーの価格上昇、水や天然資源の枯渇、といった避けがたいプレッシャーが、事業と顧客にどう影響を及ぼすのか。こうした問いを自問し、計画を立てておく必要があるのだ。

 もう一度、プリンタ事業について考えてみよう。顧客が抱く期待は目まぐるしく変化しており、それに対応するための企業の戦略行動も変化している。持続可能性というプレッシャーがなかったとしても、変化は当然のものである。ゼロックスと同業他社は、1インチ当たりのドット数や最速の印刷スピードなど、最高品質の印刷を提供しようと競い合っている。

 そうしたなかで、持続可能性というレンズを用いると、市場の情勢をより深く理解できる。プリンタのドット数がいくつであろうと、通常の製品イノベーションを超えて全体のビジネスモデルを変革する企業にはかなわない。プリンタ業界では、環境への負荷とコストを削減することで顧客に寄与する企業が勝者となる。持続可能性というレンズを通してビジネスを見ることにより、常に変化している市場のニーズと、未来のビジネスモデルを理解する方法がわかるのである。

 では、最初の質問に戻ろう。資源がますます希少かつ高価になり、また顧客の要求が増えている競争の激しい世の中で、グリーンな目標と企業の「最善の利益」とは一致しないのだろうか? 否、両者は表裏一体である。

 既存のビジネスモデルに挑むような、より根本的で持続可能性を基盤としたイノベーションに取り組まない企業は、取り残されるだろう。「変革か、死か」という言葉には、いつでも真実味がある。だがいまや、持続可能性の大局的な潮流が、現状維持からのより根本的で速い変化を促進する状況をつくり出している。

 つまりは、新しい、持続可能な規範をみずからつくるほうが、手をこまぬいたあげく押しつぶされるよりはいい、ということだ。


HBR.ORG原文:Your Competitive Position Is Always Eroding March 20, 2013

 

アンドリュー・ウィンストン(Andrew Winston)
環境戦略のコンサルタント。著書にGreen to Gold(邦訳『グリーン・トゥ・ゴールド』アスペクト、2008年)、Green Recovery、最新刊にThe Big Pivotがある。