日本企業が持続的競争優位を築くために
どのような経営を目指すべきか

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競争優位から学習優位へ

 最近、「持続的優位の終焉」がアメリカでも改めて注目されている。コロンビア・ビジネス・スクールのリタ・マグレイス教授の同名の最新書(バーバード・ビジネス・プレス)が、その代表例である。同女史は、変化が常態化する今日、イノベーターに限らず、あらゆる企業が、構造的な競争優位性は一過性のものにすぎないことを肝に銘じるべきだと主張する。では企業は、いかに優位性を築き上げ続ければいいのか?

 ここで目を、別の分野に転じてみよう。哲学の世界では、フランスのクロード・レヴィ=ストロースらが唱える構造主義が席巻した後、ポストモダンとよばれる一連の思想が台頭してきた。その1つが、フランスのジャック・デリダによる「デコンストラクシオン(脱構築)」という概念である。既存の構造を壊し続けて、常に新たな構造を模索し続けることが生きることの本質であると説く。

 科学の世界でも、生命体が生き続け、進化し続ける謎が解明されつつある。たとえば、ノーベル化学賞受賞者のイリヤ・プリゴジンによる「散逸構造論」、生物学者の福岡伸一が説く「動的平衡説」など。いずれも、閉鎖的な構造に風穴を開け、開放的な生態系を紡ぎだし続けることが、生命体の持続可能性と進化の本質であることを示唆している。

 競争優位を超える概念として、筆者は「学習優位」というモデルを提唱している。詳細は拙著『学習優位の経営』(ダイヤモンド社)を参照いただきたいが、構造上の立ち位置(ポジションニング)ではなく、「学習」という動的能力(ダイナミック・ケイパビリティ)が、持続的優位性の源泉となるという考え方だ。

 ただし、単に同じ立ち位置に立って、カイゼン型の学習をしていても進化はない。これはオペレーションに強い日本企業が陥りがちな罠である。得意(ファミリア)な領域から一歩ズラして、未知(アンファミリア)な領域に踏み出す。そしてそこで試行錯誤を通して経験値を積むことにより、新しい戦い方を習得する。このように、脱学習と学習を繰り返す(動的学習)ことによって、「ファミリアリティ」を獲得し続けること。これが、学習優位(ファミリアリティ・アドバンテージ)の経営の本質である。

 しかもこれこそ、日本企業が本来もっとも得意としている経営モデルなのである。

 競争優位論が席巻する中で、世界的に競争劣位に陥ったかに見える日本企業の中にも、学習優位のDNAを全開にして戦い続けている企業群が少なからず存在する。そこで筆者は、「失われた20年」の中で大きく成長してきた企業を取り上げ、その共通項を抽出する研究を行ってみた。詳細は、最新の拙著『失われた20年の勝ち組企業100社の成功法則~X経営の時代』(PHP)をご覧いただきたいが、本稿では、そのエッセンスをご紹介しよう。

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