日本企業が新興国市場で規模と成長を追求するのであれば、ビジネスを根本から再設計することが必要となる。これまでは、中国やインドの一握りの富裕層(それでも1億人くらいにはなる)を相手にしていて十分にビジネスになっていたかもしれない。しかし将来、10億人規模の新中間層を相手にコスト競争力を磨いているような現地企業が、徐々に技術を身につけて上流セグメントにも参入してきたらどうなるだろうか。たとえて言うならば、1960年頃のトヨタを見てGMやベンツがどう思ったか、である。ものの20年で貿易摩擦を引き起こす手強いライバルになると想像できただろうか。10年前のサムスンを見てソニーやパナソニックはどう思ったか。そう考えると、新興国の現地企業を侮るわけにはいかない。

 10億人規模の新中間層向けのビジネスにおいては、むしろ新興国企業のほうが、圧倒的な安さを実現しやすいために有利になる可能性が高い。機能や品質を思い切ってそぎ落とした低価格モデルを投入するからである。2008年にインドのタタが28万円でナノという自動車を投入すると発表したときには衝撃が走った。日本企業がこうしたライバルに太刀打ちするとしても、今のブランド(品質の高さを売り物にする)とは別ブランドを立てて、思い切った価格付けをできるだろうか。

 逆転の発想でいけば、新興国メーカーの格安機械と同程度の価格で日本の中古機械を新興国に投入するという手もあるだろう。日本メーカーが作り、日本ユーザーが使った中古機械が新興国で高い人気を集めるということは、建設機械ではすでに起きている。メーカーが認定中古機械として投入すれば、「さすが日本製は中古なのに壊れない」と品質面での評判を高めることにもなる。中古機械の販売や整備・部品提供のための拠点網を今のうちに展開しておけば、将来的に地元ユーザーが高機能の機械を求めるようになってからの事業拡大も容易になる。

 一方、ネガティブな側面としては、所得の二極化による社会不安が進行する(図表3参照)。欧州は全般的に格差が少ないものの、中南米や東南アジア、アフリカには所得格差の大きな国が存在する。先進国においてもワーキングプアの問題があり、ライフスタイル病(たとえば、貧しいがゆえに低コスト・簡便な食品に頼ることによる生活習慣病の増加)などの課題がある。新興国においても、急速な発展から取り残される人々が出てくる。各国の首都などに生活する裕福層や知識層の経済状況やライフスタイルは、国境を越えて似た方向になっていくかもしれない。だが、一方で各国内の格差は多くの国で拡大していく。ニューヨークとバンコクの距離は縮まるが、タイ国内でバンコクと北部の貧困なイサーン地方との格差は拡大する。

 日本企業は、海外と比べると格差の小さい自国市場の環境に慣れているため、所得階層に応じて顧客のニーズも違えば価格帯もまったく違うという環境には不慣れかもしれない。また、これまでは新興国市場に出ていく場合でも、富裕層から狙っていったので、新中間層や底辺層にまだ関心が向かっていないという場合もある。ただし、今後30年というスパンで成長戦略を考える場合は、どこまで広くターゲットとするのか(どこからはターゲットにしないのか)という判断に基づいて、場合によっては複数のビジネスモデル(富裕層向けと中間層、新中間層、底辺層など)を立ち上げることも必要になるかもしれない。

*第9回は2013年12月2日(月)公開です。

ブーズ・アンド・カンパニー
グローバルな経営コンサルティング会社として、世界のトップ企業及び諸機関に対し、経営レベルの課題を解決するコンサルティング・サービスを提供している。全世界57事務所に3,000人以上のスタッフを擁し、クライアント企業との実践的な取り組みを通じて、「本質的な競争優位」と「差別化された優れたケイパビリティ」の創出を支援することを使命とする。

 

【連載バックナンバー】
第1回「長期的ビジョンはなぜ必要なのか」
第2回「グローバル市場の変化を見通す」
第3回「グローバルな10のメガ・トレンド」
第4回「第1のメガ・トレンド 環境保護主義」
第5回「第2のメガ・トレンド 資源をめぐる戦い」
第6回「第3のメガ・トレンド 人口動態と富」
第7回「第4のメガ・トレンド 人口移動」