経済発展にともなって都市化が進展するのは、日本の高度成長期を振り返れば理解できる。地方の農家の二男や三男が集団就職などで都会の企業に入社して給与所得者となり、団地や社宅に住んで家具や家電製品を消費するようになる。単に人口が増えるだけでは経済はあまり成長しないが、「給与を得て消費する」という都市型人口が増加することで消費市場が成長するのだ。

 都市化が進むことは経済発展上、好ましい側面もあるが、メガシティには固有の問題もある。住居やオフィススペースが供給不足から高コスト化し、公園や公共施設なども含めた都市空間の整備が追いつかず、都市内の交通手段の容量を超える交通量で渋滞が常態化するなど、都市の混雑そのものが問題である。ごみの収集や処分が追いつかず、大気や水質汚染など公害問題が深刻化し、健康被害が起きるという衛生面の問題もある。また、所得・生活水準の向上と同時に、生活に必要な費用も上昇するために、貧富の格差が拡大し、スラム街の発生や犯罪率の上昇という治安問題が生じる側面もある。新興国で今後誕生する高成長率メガシティほど、こうした問題への解決手段が不足しているために、深刻な事態に陥る可能性が高い。

 翻って東京(首都圏)は世界最大のメガシティでありながら、(家賃が高いとか満員電車が大変という問題はあるものの)今後新興国のメガシティが直面するであろう問題をクリアしてきている。交通渋滞問題に関しては電車通勤の利便性を高めることで緩和されており、北京やバンコク、ジャカルタのような深刻な問題には至っていない。東京の上下水道の整備率はほぼ100%であるが、新興国では都市部においても下水道の整備率が80%程度というところも多い。ごみ収集に関しても、東京はごみ発生に対する最終埋立の比率が10%程度であるが、新興国ではより高い比率で埋め立てられており、かつその最終埋立場の衛生面に問題がある場合も多い。さらに東京は犯罪の発生率も世界的に見て非常に少ない。

 こうした日本の技術とノウハウは、貴重な財産といえるかもしれない。必ずしも公的セクターだけの努力ではなく、コンビニや宅配便など民間セクターの築き上げたネットワークもまた他国に類を見ないものである。個別要素技術に分解して新興国や発展途上国に輸出するというものではなく、社会システムとして提案し、多くのプレーヤーをまとめあげていくことができれば、まさにスマートシティの構築につながる可能性がある。

 メガシティがもたらす問題の解決にあたって日本企業がビジネスチャンスにするうえでのヒントは、かつての私鉄(東急や阪急など)の取り組みにあるのではないだろうか。ターミナル駅や沿線に商業・娯楽施設を開発して沿線のブランドを高め、典型的には東急田園都市線(全線開通は1984年)のように鉄道予定地の周辺の土地を購入しておいて、宅地造成・住宅建設を行って販売利益を得て、開発の投資を回収したのである。これにならって、たとえば新興国の地元資本と連携して、私鉄建設の際の周辺宅地開発に加えて、上下水道、ごみ収集、警備などのサービスも民営で行うようにすれば、その沿線のブランド価値も高まり、投資収益も大きなものとなるかもしれない。新幹線建設プロジェクトで他国と争うのもよいが、私鉄プロジェクトは民間主導で進められるものであり、東京という立派な「ショーケース」を活用できる分野と言える。

*第8回は2013年11月25日(月)公開です。

ブーズ・アンド・カンパニー
グローバルな経営コンサルティング会社として、世界のトップ企業及び諸機関に対し、経営レベルの課題を解決するコンサルティング・サービスを提供している。全世界57事務所に3,000人以上のスタッフを擁し、クライアント企業との実践的な取り組みを通じて、「本質的な競争優位」と「差別化された優れたケイパビリティ」の創出を支援することを使命とする。

 

【連載バックナンバー】
第1回「長期的ビジョンはなぜ必要なのか」
第2回「グローバル市場の変化を見通す」
第3回「グローバルな10のメガ・トレンド」
第4回「第1のメガ・トレンド 環境保護主義」
第5回「第2のメガ・トレンド 資源をめぐる戦い」
第6回「第3のメガ・トレンド 人口動態と富」