ニューヨーク市は2つの都市ではない。800万人の住民にとっての、800万の顔を持つ都市だ。今回のハリケーンは、その1人ひとりに異なる影響を及ぼした。明かりの消えた町、ガレキの散乱した道路、水に浸かった住宅。こうした場所に足を運び手を差し伸べ、それぞれのストーリーに耳を傾けること――それは復興への重要な、そして意義のあるステップだ。

 もちろん、食料や衣類、毛布は生き延びるために必要だ。しかし、生身の人間どうしによる会話、絆、コミュニティ意識も、同じように不可欠なものである。

 こうしたものを、私たちは失いつつある。大きな組織にいて、効率的なコミュニケーション手段を使っていると、人々が相対する距離は広がっていく。生活にデジタルがあふれるにつれ、生身のやり取りが減っていく。結局のところ、組織は人間によってつくられているのだから、そうなる必要はないはずだ。それなのに「従業員らしく」ふるまい、業務の効率を重視すればするほど、私たちはどんどん人間らしさを失ってしまう。

 隣人と物資を分け合い、語り合うことは、効率的ではない。マイクとケリーが受け取った物資の中には、誰にも必要のないものもあるだろう。その物資を最も必要としているのは、彼らではなかったかもしれない。

 しかし、私たちのファーロッカウェイへの旅は、非効率な物事のプラス面を私に教えてくれた。被災者にとって、配給所に並んで必要な物資を申請し受け取る代わりに、隣人が「うちの玄関の前に物資があるから、必要なものを持っていきなよ」と言ってくれるほうが、どんなにいいだろう。

 恥ずべきことに最初は、彼らが物資を独り占めしないだろうか、という疑いが私の頭をかすめた。このような不信こそ、非人間的なお役所仕事につながるもの、あるいはそこから生まれるものだ。

 彼らがほとんどの物資を自分たちで使う可能性も、なくはない。しかし私にはそうは思えない。マイクとケリーの善き人柄は、私や娘たちへの接し方から伝わってきた。私たちが彼らの家に着くや、ケリーは限りあるペットボトルの水を差し出してくれた。彼らは必要なものを使い、隣人と分かち合えるものを差し出すだろう。

 その夜遅く帰宅した私たちは、とてもいい気持ちだった。助けを必要としている人たちに手を差し伸べることができた、という理由だけではない。起業家的なイニシアチブを発揮できたことは誇りに思っているが、それだけでもない。マイクとケリーに出会い、絆を持つことができたからだ。

 これこそが、非効率から得られる大切なものである。


HBR.ORG原文:The Upside of Inefficiency November 9, 2012

 

ピーター・ブレグマン(Peter Bregman)
CEOおよびリーダーにアドバイスを行う戦略コンサルタント。最新刊は『最高の人生と仕事をつかむ18分の法則』(日本経済新聞出版社)。