新興国市場への事業展開においては、かつての先進国進出とは根本的に立ち位置が異なることに留意すべきである。1970年代の先進国進出は、欧米企業のやり方を真似して、より安く作って、相手を採算割れに追い込めばよいというシンプルな戦いであり、日本企業は相対的に低コストという立ち位置に恵まれていた。人件費が安く、為替も安く、新たな低コスト化技術を利用できたためである。そのため、戦略がなくても戦えたと言える。一方、今後の新興国進出においては、現地企業のほうが日本企業の真似をでき、格段に低いコスト構造を持つという立場にあるため、こうしたライバルに正面から激突しても勝ち目は薄い。周到に戦略を構想しておかなければならないわけである。

 かつての先進国進出の成功体験に毒された経営トップは、「生きのいい連中を現地に送り込めば、あとはどうにかなる」としか考えていないのかもしれない。現地任せで戦略を作らせて、結果オーライで成功する可能性はある。しかし、それでは属人的な資質に依存しすぎてしまい、北京で成功したが上海で失敗し、タイで成功したがインドネシアで失敗した、というような結果になりかねない。かといって日本の本社には、グローバルな長期戦略を考えられるリーダー人材もスタッフもいないという問題もあるだろう。しかし、本社で考えるグローバル長期戦略は、あくまでも大方針のレベルでよいのである。ただし、10年以上にわたって使い続けることのできる大方針でなければならない。

 では、10年以上にわたって使い続けることのできるグローバル長期戦略を立てるためにはどうすればよいのか。そのために30年スパンのメガ・トレンドを理解することが重要なのである。

グローバル・マーケットはどう進化していくのか

 ブーズ・アンド・カンパニーでは、経営のあり方に対して長期的に大きなインパクトを及ぼすグローバルな社会潮流変化に関する研究を行い、2040年までの世界を方向づける「10のメガ・トレンド」としてまとめた。海外の大手企業のなかには、長期的なグローバル経済の見通しをもとに戦略計画を策定するというスタイルのところも多い。そうしたニーズに対応するために、コンサルティング会社としても基礎研究テーマとして、このメガ・トレンド分析を行っている。

 本連載ではグローバルの調査内容をもとに、そのエッセンスを紹介するが、着眼点の置き方そのものにも欧米風なところがあり、また紹介されているデータの切り口もまた欧米風なおもしろさがある。日本で見かける調査資料の多くは、日本のデータを中心にして複数の先進国および中国やインドと比較するというタイプのものであるが、本書では「グローバル市場をフラットに見る」、すなわち必ずしも日本を中心するのではなく、世界の長期的な方向性を示すものである。

 欧米の大手グローバル企業が新興国市場を考えるときのスタンスは、まさに「グローバル市場をフラットに見て」どう陣取るのが長期的に最適なのかを見るというものである。これに対して日本企業の典型的なスタンスは、「同業他社が進出したので」「市場が拡大し始めたので」という短期的な現象への対応策となっている。まずは経営トップ自らが、高い目線に立ち、広い視野で、遠い将来までを見据えて、どこにどう陣取るのかのポジショニングの構想を考えなければいけない。