ポーター流にいうと、儲からない場所に陣取ることは戦略ではない、ということになる。一方で、ポーター以外の経営学者は、そうした「ポジショニング」論だけではなく、企業の内面的な強みをどう活用するかも戦略であると主張するようになった。これは「リソース」論または「ケイパビリティ」論と呼ぶことができる。実際、日本企業は「ポジショニング」にはこだわらず、オペレーション効率という「ケイパビリティ」を強化することで欧米企業を蹴散らしてきた。欧米企業は、日本企業との同質的な戦いを回避し、儲からなくなった戦場からは撤退して、独自の優位性を築ける「ポジショニング」に逃げ込んだ。日本企業は「ケイパビリティ」をさらに強化する方向に突っ走ったものの、実際には「薄利多売」で歯を食いしばるための能力でしかなく、同業他社もまた同様の努力で追随してくるため、利益率の低さという問題は(一時的円安の時期を除いて)解決しなかった。

 端的に整理をすると、「ポジショニング」は必要条件、「ケイパビリティ」は十分条件と見ることができる。儲かる陣地に陣取ることがまず必要で、それでも同業他社が同じような陣地に来た場合、他社よりも優れた能力を築くことによって、競争優位を得るのである。日本企業の多くは、儲からない陣地のままで量的拡大をめざし、低コスト競争力を高めようとし続けたものの、終わりなき同質的競争に陥ってしまった。ちなみに、学習効果によってコスト効率が異なるというのは1960年代の米国製造業同士を観察して得られた知見であり、それ以降の国際競争においては、他の要因(人件費の低い国で生産する、より低コストの新技術を採用する、など)によって低コスト化が実現しているため、シェア追求のもともとの意義は失われていることに留意すべきである(シェアがライバルの2倍あれば利益は2倍以上になるというのが、経験曲線効果に基づくシェア獲得の意義であるが、シェアが2倍で利益は2倍以下というのでは、当初の意義は達成できていない)。

 では、今後の日本企業はどのような戦略を構想すべきなのだろうか。まずもって考えるべきことは、自社の強みのある領域を見定め、そこに集中することである。先進国市場が成熟に向かい始めたころは、欧米企業の多くも、本業集中だけでは成長できないと考え、本業に関連する隣接分野に多角化を進めた。しかし、欧米企業は今、本業回帰の姿勢を強めている。それはなぜか。新興国市場の成長余力が大きいため、先進国市場の隣接業界に出るよりは、本業で新興国市場に出るほうが、明らかに成長可能性があり、かつ競争優位を築ける可能性が高いからである。

 とくに今後30年を展望すると、ほとんどの業界において主戦場は新興国市場になる。あえて日本や欧米の富裕層市場というニッチに陣取り、独自の価値を追求するというのももちろん戦略的なポジショニングではあるが、そこで大きく成長することは難しい。長期的な成長戦略という観点から見ると、やはり新興国市場を無視して通り過ぎるわけにはいかない。たとえば、電気自動車用のバッテリーの要素技術に強みを持つ日本企業があったとして、日本や欧米のニッチ市場(たとえば年間十数万台)を念頭に高品質の製品開発に成功したとしても、中国やインドで低品質のバッテリーが年間数百万台も大量生産されて、段違いの低コスト化と小型化が実現してしまった場合、世界の標準は明らかにそちらになってしまう。

 日本企業のありようを嘲る表現として、「ガラパゴス」という言葉がよく使われるようになった。短期的に見ると、自分たちのお膝元であり、海外の競合があまり参入できない1.3億人の国内市場に陣取ることが効果的であり、この市場のニーズに細かく応えて同業他社よりも安く製品を供給することのほうが、ニーズもよくわからない海外市場に打って出て欧米や韓国の企業と渡り合うよりも、低リスクのように見える。結果として、国際標準の座から程遠い、不思議な製品が次々と市場に投入されることとなる。長期的な成長戦略という観点から構想していれば、このような結果にはならなかったはずである。

*第2回は2013年10月15日(火)公開です。

ブーズ・アンド・カンパニー
グローバルな経営コンサルティング会社として、世界のトップ企業及び諸機関に対し、経営レベルの課題を解決するコンサルティング・サービスを提供している。全世界57事務所に3,000人以上のスタッフを擁し、クライアント企業との実践的な取り組みを通じて、「本質的な競争優位」と「差別化された優れたケイパビリティ」の創出を支援することを使命とする。