長期の利益と成長

 企業の経営者は自社への投資から得られる長期利益の最大化を望んでいるという仮定は、それ自体、成長への欲求と利益獲得の欲求との間の関係に興味深い示唆を与える。利益は順調な成長の一条件であるが、第一義として企業のために追求される、つまり、資本の使用や「リスク負担」の対価として所有者に払い戻すためにではなく、企業に再投資するために利益が追求されるとすれば、投資政策の観点からは、成長と利益は投資プログラムの選択基準として同じ意義をもつことになる。投資に対するリターンが負であれば、自殺行為となるため、成長のために企業は決して拡張への投資をしないだろう。企業は、最終的に企業内の投資に利用しうる資金を増やす目的以外では、決して社外に投資しないはずである。したがって、ここで論じた意味においては企業の長期利益の総額を増大させることは、長期の成長率を増加させることと同じである。それゆえ、企業の投資活動の目標として「成長」を論じるか、「利益」を論じるかは、重要ではない。

 権力、地位、社会の評価、あるいは単にゲームを楽しむといったその他の「目標」が、しばしば重要であることを否定する必要はない。ここでは、これらの目的の達成は、利益獲得の能力と直接に結びついていることが多いことを認識しておけばそれでよい。企業の成長率や方向性は、企業が有利な投資の機会に対してどれだけ敏感に行動するかによって決まることは、疑う余地がない。このことから、「企業者精神」は決して同質的なものではないが、企業に企業者精神が欠けていると、その成長を妨げたり、著しく遅らせたりすることになるといえる。この問題については、次章でもう1度触れる。

(本連載、終了)

*以降、第3章では、企業の事業機会と成長の関係、企業者精神の役割と経営陣の能力を問い、また本書を通じて内部成長、多角化、買収と合併、産業集中などが議論されていく。機会があれば、本特集と合わせて是非ご覧いただきたい。

The Theory of the Growth of the Firm, Third Edition
by Edith Penrose
Copyright c Edith Penrose 1995
All right reserved
The Theory of the Growth of the Firm, Third Edition was originaloy published in English in 1995.
This translation is published by arrangement with Oxford university Press.

 

 

【書籍のご案内】

『企業成長の理論[第3版]』
企業の成長要因が、自社の資源であることを理論的に分析した経営書の古典的名著。著者ペンローズは、企業は自社内の人的資源の成長によって成長することを、本書で理論的に分析した。つまり、社員の能力アップやノウハウの蓄積、経営者の力こそ、企業成長の源泉である。『GMとともに』『組織は戦略に従う』と共に今日の経営学の礎を築いた必読書。A5判上製、371ページ、定価(本体4500円+税)

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【目次】
第三版への序文
第1章 イントロダクション
第2章 理論における企業
 価格と生産の理論における「企業」
 一つの管理組織としての企業
 生産資源の集合としての企業
 企業の動機づけ
第3章 企業の事業機会と「企業者」
 企業者精神の役割と経営陣の能力
 企業の事業機会に占める期待の役割
第4章 合併をともなわない拡張──マネジメント上の限界の後退
 マネジメント上の限界の性質
 不確実性とリスクの影響
第5章「継承された」資源と拡張の方向
 未利用生産的サービスの利用可能性の継続
「需要」と企業の生産的資源
 拡張の方向
第6章 規模の経済性と成長の経済性
 規模の経済性
 成長の経済性
第7章 多角化の経済学
 多角化の意味
 多角化のための特定の機会
 買収の役割
 競争の役割
 特殊な問題の解としての多角化
 成長のための一般的政策としての多角化
 垂直統合
 資源のプールとしての企業
第8章 買収と合併を通じての拡張
 買収の経済的根拠
 企業ではない「事業」の売買
 企業者サービスの役割
 経営者サービスの役割
 合併と支配的企業
第9章 時間の経過のなかでの企業の成長率
 特別な仮定
 拡張に利用できる経営者サービス
 拡張に必要とされる経営者サービス
 規模の増大にともなう成長率の変化
第10章 成長経済における大企業と小企業の地位
 小企業の特殊な地位
第11章 成長経済における成長企業── 産業集中のプロセスと支配のパターン
 参入への障壁
 成長経済における合併
 間隙と景気循環
 産業集中のプロセス
 集中と支配
 結論
訳者あとがき