第2に、私は以下での議論の多くを具体的な例とともに描いていく。もちろん、矛盾のない事例というものは、十分な数の事例が示され、かつ、それらが代表的なサンプルといえる選ばれ方をしていない限り、証拠とはいえない。矛盾する事例が一般論の反証とならないのと同じことである。次章以下に示されている事例は説明のためのものにすぎないが、概して成長のプロセスに関する理論は、個別企業の経験に照らした検証に左右されやすい。本書の理論の一般性を包括的に検証するのに利用できるほど十分に体系だった情報は、まだ存在しない。社史や個々の経営者の伝記は数多く書かれているが、前記のような観点に照らして本当に適切なものは、ほんの一握りしかない。企業の年次報告書、雑誌や新聞の記事、およびビジネスマンへのインタビューは、慎重に識別すれば有用ではあるが、体系的かつ包括的な情報の核とはなりえない。私は、成長のプロセスに関して展開したさまざまな仮説に対して、少なくとも裏づけは十分といえるだけの証拠があることをポイントごとに確認するよう努めてきたが、本研究の枠組みの中では、理論的分析を展開したり、利用可能な情報に照らしてそれを広範に検証したりすることは不可能である。

 他方、成長の限度、すなわち、企業の最大成長率を決定する要因に関する分析は、いずれにせよ現時点での体系化では、現実の世界の事象に照らして検証することができない。それは1つには、さまざまな概念のうちのいくつかを量的に表現することが難しいからであり、また1つには、いかなる特定の企業についても、その最大成長率がどれほどなのか、あるいはどれほどだったかを知ることは不可能だからである。おそらくこれらの課題のいくつかは、他の研究者たちが違った体系化を試みていくなかで克服されていくだろう。現時点では、企業の成長率の限界に関する理論の正当性は、もっぱらそれが論理および直感的な受け入れやすさにおいて、成長プロセスの理論とどの程度まで整合的なのかにかかっている。(後半につづく)

(第5回 は「第1章イントロダクション」後半を紹介します)

 

The Theory of the Growth of the Firm, Third Edition
by Edith Penrose
Copyright c Edith Penrose 1995
All right reserved
The Theory of the Growth of the Firm, Third Edition was originaloy published in English in 1995.
This translation is published by arrangement with Oxford university Press.

 

【連載バックナンバー】
第1回 半世紀を超えて、なお読み継がれる理由
第2回 企業成長の議論はいかにして展開されたか
第3回 「企業の境界」をどうとらえるか

 

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企業の成長要因が、自社の資源であることを理論的に分析した経営書の古典的名著。著者ペンローズは、企業は自社内の人的資源の成長によって成長することを、本書で理論的に分析した。つまり、社員の能力アップやノウハウの蓄積、経営者の力こそ、企業成長の源泉である。『GMとともに』『組織は戦略に従う』と共に今日の経営学の礎を築いた必読書。A5判上製、371ページ、定価(本体4500円+税)

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