企業成長の理論を展開しようとする試みのなかには、伝統的なアプローチに加え、生物学的なアナロジーを用い、企業を自然界に生存する生物と基本的に同じ成長プロセスをもつ有機体とみなしたものも、いくつか散発的にはあった。このタイプの分析には多くの問題点があった。最も深刻な問題の1つは、この成長のプロセスには、人間のモティベーションや意識的な意思決定が介在する余地がないことである。このことだけでも、そのような企業成長の理論を否定するに十分な根拠となるだろう。あらゆる証拠が示すように、企業の成長は、ある特定のグループの人間による何かを行うための企てに関係している。この事実が明確に認識されなければ、得るところはなく、多くを失うばかりである。

 私は企業行動についての伝統的な分析方法から距離をおいている。とはいえ、この研究の分析構造を積み上げる土台となる考え方の多くは、いくつかの基本的なものを含め、理論経済学や応用経済学の文献に登場するものであり、この構造を構成する多くの要素は、容易に理解されるだろう。本書で私が試みたことは、私自身の考えと他者のそれらを組み合わせ、両者を願わくば企業成長の1つの見方として理論的にも「実践的」にも役に立つそれなりに整然とした1つの体系へと形を整え、一貫性をもった自己完結的な企業成長の理論を構築することである。ここから分析上の構成を精緻化し、さまざまな波及的問題を探求し、この分析の理論的・政策的意義を発展させていくことによって、さらに多くのことができるだろう。なお、本書で用いている概念のなかにはさほど精密に定義づけされていないものもあるが、それは主に、ここでの目的にとっては高度に精緻な定義が必要ないからである。本書の分析をより詳細または精確に適用しようとするならば、定義の精緻化にさらに努力を払うことにも意味があろう。

 私の本来の関心は成長プロセスの理論的分析にあるが、経済学者だけでなくより広い読者にこの研究を知ってもらいたい。そのため、避けがたい抽象化のもたらす影響を、2つの方法で減らそうとしている。第1に、ここでの分析の基礎をなす基本的な仮定は、「現実の世界」での適用可能性という観点から選ばれている。そして、厳密にいえば、有用な結果が得られさえすれば適用可能性の裏づけは必要ないだろうが、私はそれらを裏づけるためにはある程度の努力もいとわない。もちろん議論を展開する過程では、われわれが関心をもつ特定の問題を抽出するために、明らかに「非現実的な」仮定をおくことがしばしば必要となる。大部分そうした仮定は、後段で取りはずされるか、あるいは簡単に取りはずすことができる。